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「おい。春夜」
矛先が自分に向けられ、体が萎縮した。
「お前、母親のことを知りたいんじゃないのか?」
「えっ……」
「教えてやるよ。その代わり相手しろ」
裕介はそう言って、不機嫌そうに舌打ちをした。
「ハルヤ……あんた、良いのかい?」
キミヨが眉を顰め、確認するように春夜に問う。
母を探すためにここにきて、母の気持ちを知りたくてここで働いてきたのだ。裕介の相手をすれば、もしかしたら母に会うことも叶うかもしれない。そう考えると、嘘か本当か分からなくても、ここは頷く以外に選択肢はない。
春夜は大丈夫と言って、キミヨに向かって頷いた。
裕介に「こちらへ」と春夜は言うと、冷えて感覚の鈍った足を部屋に向ける。
「さっきまで他の人を相手にしてて、散らかってるから」
春夜は冷たく言い放つと、部屋の襖を開く。
手前の部屋でもてなすこともせず、奥の布団の敷かれている部屋へと導いた。
「あの男だろ。あいつはお前の何なんだ?」
乱れた布団を前にして、裕介が不機嫌そうに吐き捨てる。何で分かったのかと聞く前に、裕介に突き飛ばされ春夜の体が布団に投げ出された。
鈍い痛みに顔を顰めると、裕介が春夜の上に馬乗りになり、着物に手をかけた。
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