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「個人情報なんだ。裕介も社会人なんだから分かるでしょ?」
説得しようと、春夜は裕介の腕にしがみつく。
「ちゃんと管理できないお前が悪いんだろう」
「お願い。ここにいられなくなったら困るんだ」
それ以上に、松原に迷惑がかかってしまうことが怖かった。
裕介が中学時代にしたように、写真を撮って脅すかもしれない。どこの企業
に勤めているか知られた以上は、待ち伏せして脅すか、会社に匿名で封書を送ることも可能だ。
考えただけで血の気が引き、吐き気が込み上げた。
「お願い……なんでもするから。僕からこの場所を奪わないでほしい」
春夜は目尻に涙を浮かべ、力なく布団に突っ伏した。土下座に近い格好で、必死にお願いしますと繰り返す。
プライドを捨てて、自分がこの先も裕介のオモチャになってもかまわなかった。
何の恩も返せず、彼が差し伸べた手も振り払ってしまった今、自分が彼に出来ることは、これ以上の迷惑をかけないことだけだった。
「随分と、この男に必死なんだな」
裕介が名刺を振り、冷めたように言った。
「そうじゃない。その人はただの客。向こうが勝手に、熱を上げているだけだから……僕はただ、この場所を離れたくはないだけ」
「それなら、もうこの男は必要ないよな」
春夜の目の前で、裕介は名刺を縦に破いた。重ね併せると、再び破いていく。
春夜はそれをぼんやりと見つめた。細かくなった名刺が裕介の手からこぼれ落ち、目の前をハラハラと舞っていく。
「いいか。もうこいつと寝るなよ。来ても追い返せ」
裕介の脅迫に等しい言葉に、春夜は素直に頷いた。遅かれ早かれ、彼とはこういう運命になったのだからこれで良い。
裕介が満足そうに頷くと、再び手が春夜の乱れた着物に伸ばされる。春夜は何の抵抗もせず、それを静かに受け入れた。
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