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 年末年始が近づくと、松原は残っている今年の仕事や取引先への挨拶回りに追われた。  ハルヤのことは気がかりだったが、忙しさでなかなか都合がつかないでいた。名刺を渡してしばらく経つが、ハルヤからの連絡も未だに来ていない。  彼の連絡先を知らない以上は、こちらから様子を伺うことはできず、もどかしい気持ちが増していた。  仕事がやっと一段落ついたのは、正月休みに入る前日だった。  今年最後だからということで斉木に誘われ、松原は夕飯を食べに行くことにした。飲みに行こうと斉木が言わなかったのは、連日の接待で浴びるほどの酒を飲んでいたからだろう。 「胃に優しい和食にしよう」と斉木が言い出したので、松原もそれに従った。  斉木の口から和食という言葉はなんだか似合わなかったが、案内されたお店は静かな和食専門店だった。  ビルの二階に入っていて、一見すると居酒屋のような作りだったが、中は比較的落ち着いた雰囲気だ。客層も老夫婦や、家族連れが多いように感じる。  和服姿の従業員に促され、二人はテーブルの個室に案内された。 「前に上司とここに来たんだ。俺は和食より洋食派だけど、ここの和食は何度も食べたくなる」  斉木はそう言って、メニューを松原に手渡した。 「それは楽しみだ。お前が和食って言い出すのも珍しいから、期待している」  松原はそう言いつつ、受け取ったメニューに視線を落とす。

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