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「僕に絡んできた男――あの人は僕の義理の兄です」  春夜は口元から手を外し、松原をじっと見つめた。 「僕が初めて抱かれたのも彼なんです」  松原の目が見開かれた。たとえ血の繋がりが薄くとも、仮にも兄弟として暮らしてきた相手なのだ。生真面目そうな彼が、それを聞いて幻滅しないでいられるだろうか。 「中学の時です。学校と家庭での平穏を得るために、僕は彼と取り引きしました。僕が彼に体を差し出す代わりに、守ってくれるようにと――」  松原の表情は険しくなり、春夜から視線を逸らした。 「僕はそういう人間なんです。自分の価値はこの体でしかない。だからそれを有効活用して、今まで生きてきたんです」  春夜はグラスに口をつける。焼け付くような喉の感触に目元がじんわりと熱くなった。 「僕がここにいるのは、確かに母を探しに来たのがキッカケだったというのもあります。でも……ここでしか僕の価値が見いだせないっていうのもあるんです」  目の前がぼんやりと歪む。松原の険悪な表情がぼやけて何重にも見えた。そんな顔をさせてしまうなんて、自分はこの界隈の一員として失格だ。  松原に会えば会うほど、自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。 「……もう、ここには来ないでください」  言葉は頼りなく、萎んでいた。きっぱりとした口調で言うつもりが、唇が震えてしまう。

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