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「どうして、拒まないんだ? 出入り禁止という手段は取れないのか?」
「……できません」
本当は出禁にすることもできる。でもそれをしてしまえば、矛先が今度は松原に向かってしまう。自分のしたことで、松原に迷惑がかかるのだけは避けたかった。
「支配人に話をするとか、店を変えて貰うだとか方法はいくらでもある。なんなら、俺から話をつけてもいい」
「それだけはやめてください!」
松原のことだから本当に行動に移しかねなかった。突然声を荒げた春夜に、松原が訝しげな表情を浮かべた。
「……あなたに迷惑をかけたくないんです」
「迷惑だとは思っていない。俺は君が傷つく姿を見ている方が耐えられない」
膝に乗せていた手を覆うように、松原の手に握り込まれる。温度の高い、力強い手の感触。
白い光が気泡のように目の前をちらつき、やがて流れ落ちて消えていく。
「僕が……悪いんです」
松原の掌に滴が落ち、手の甲を滑り落ちていく。
「……どういうことだ」
松原の手の力が強まった。これ以上隠しせそうにない。黙っていても、誤魔化しても、松原は納得のいく答えが得られるまで詰め寄ってくるだろう。
春夜は松原を見上げると、ゆっくりと口を開いた。
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