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「それにあいつも、社会人なんだろう? 素性がバレているのに、行動に移すようなら馬鹿としか言いようがない。ここの店は客から名刺を貰う決まりになっているんだろ。揉め事を避ける為というのもあるかもしれないが、何かトラブルが起きた時の為でもあるんじゃないのか?」
松原も最初の時に、そういう決まりだから名刺を渡すようにと催促された。
そこまでしなければいけないのかと、当初は不快感もあったが、従業員の身を守る為だと考えれば賢明な規則だろう。
「この話を支配人は知っているのか? ちゃんと話せば、それなりに対処してくれるんじゃないのか」
「……どうなんでしょう。キミヨさんは僕を嫌ってるから」
やっと口を開いたハルヤは、力なく笑みを浮かべる。
「そんなことはない。これは全て手作りなんじゃないのか? こんなに豪勢なおせちを作るのがどれだけ大変かぐらい、君だって分かるんじゃないのか」
ちゃぶ台に広げられたお重に視線を向けると、硬い表情を浮かべたハルヤもつられるようにそちらに視線を向けた。
彩り豊かな食材が盛られているお重からは、ハルヤを嫌っているようには感じられない。
人参一つにしても綺麗な紅葉 型に切り取られ、蓮根も花型に切られている。どうみても手抜きには見えない。
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