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「寒いので準備してきます。少し待っていてください」
松原が呆気にとられているうちに、ハルヤは松原から身を離し、ちゃぶ台の上のお重を重ね始めた。
松原も腰を上げると、皿やグラスを重ねていく。
座って待つようにハルヤは言ってきたが、気持ちがせっているようで落ち着いてはいられなかった。
「今日は客じゃない。気にするな」
まるで思春期男子みたいな自分を隠すように、松原はさっさと食器を抱えて立ち上がった。
ハルヤの後について厨房に向かった後、二階への階段を上っていく。
建物内は二人きりだけのようで、眠っているかのように静まり返っていた。歩くと軋む床の音が、やたら大きく感じられる。
「この建物も老朽化が進んでいて、改良工事をしてはいるんです。でも、長くは持たないかもしれません」
部屋に向かう道すがら、ハルヤがぽつりと言った。
「そうだな。人も建物もどんどん歳を取っていく。それは誰にも止められないからな」
「母が客を取れなくなったのも、歳を取ったからなんでしょうか」
唐突に母親の話が出たことで、松原は息を呑む。ハルヤはそれ以上口を開くことはなく、部屋の襖を開くと先に入って電気をつけた。
真っ暗だった室内が、ぼんやりとした明かりに晒される。
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