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最初に案内された部屋と同じ場所だった。
畳の部屋にちゃぶ台がぽつりと置かれている。正面の障子には、街灯とおぼしき白く淡い光を映し出していた。以前来たときは、ピンク色に染まっていたはずだ。
この界隈の全てが、今は眠っているようだった。
「廊下よりも寒いですからね」
確かに閉ざされていた部屋は、廊下よりも温度が冷たく感じられた。
「どうせ暑くなるんだから構わない」
松原はそう言って部屋に入るなり、ハルヤの手を取った。冷え切っている手を包み込むように握りしめる。
「意外です。品がないことも言うんですね」
ハルヤが笑みを浮かべ、手を握り返してくる。居たたまれなさに、松原は顔を顰めた。
両開きの襖が開かれると、以前と同じように布団が敷かれていた。
障子から漏れる光を頼りに、ハルヤが行灯に近づき明かりを灯す。周囲がぼんやりとした朱色の光に包まれていく。
松原はその無防備な背後に近づくと、そっとハルヤを抱きしめる。
「準備するので、待っていてください」
「必要ない」
首筋に鼻先を埋める。微かに漂う淡い香りに、堪らない欲が込み上げた。冷たい首筋に唇を押し付けると、ハルヤが小さく息を零す。
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