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 檜の浴槽にお湯を溜めてから部屋に戻ると、松原は障子を開けてガラス越しに窓の外をじっと見つめていた。 「お湯を張っておきました」  声をかけると松原の視線が、春夜に向けられる。 「君はずっと、ここに居たいと思っているのか?」  松原の問いかけに、春夜は視線を落とす。 「……自分にはここしか居場所がないので」 「君が嫌じゃなければ、うちに来れば良い」  松原が近づき、春夜の目の前で立ち止まった。 「俺はあの男と違って、君に無理強いをさせたくはない。でも、君をここに残していくのも気がかりなんだ」 「でも僕は……あなたの役には何も立てないんです」  ここを離れれば、自分は職を失う。当面の生活費は貯金で賄えても、ずっととなれば難しい。松原にばかり負担を強いることになってしまう。 「君は以前、孤独はどうやって癒やせるのかって言っていたな」  確か松原に助けられた日に、松原が母子家庭だったと聞いて言ったような気がした。 「誰かが傍にいないと、孤独はずっと続く。だから君には俺の傍にいて、孤独を埋めて欲しい。それだけで充分だ」 「僕なんかで……本当に良いんですか?」  松原だったら普通の恋愛をして、普通に結婚して子供にだって恵まれることも出来るはずだ。

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