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「俺が初めて飼ったのが金魚なんだ」  水面に漂う餌に食らいつく金魚を眺めつつ、松原が切り出した。 「小学校五年生ぐらいの時。教室に水槽があったんだが生き物係が世話する以外、誰も気に留めてはいなかった。それがなんだか、自身と重なった」  金魚の口から気泡が吐き出され、水面に浮かび弾けた。 「俺も家で一人でいることが多かった。それがただ世話をされているだけのように思えて……きっとそれが重なったんだろうな。だけど親が自分の生活のために働いているんだと思うと、寂しいだなんて言えなかった」 「分かります……僕もそうでしたから」  自分も母に寂しい気持ちを伝えられずにいた。母の負担にこれ以上ならないようにと、自分の気持ちを押し隠していた。 「そうだったな。君の話を聞いた時、俺はずっと気になってしかたなかったんだ。多分、自分と似ていた部分を感じていたのかもしれない」  最初こそは嫌悪感を示していたのに、わざわざ自分を助けたのは彼の同情心からくるものだったのだろう。 「君の方が辛い思いをしてきたのだろうけど、俺も寂しいと感じることはあったんだ。だからお祭りで取った金魚を飼い始めた。それがキッカケだな」  松原の視線が棚に乗った金魚鉢から、春夜に移された。 「うちに来れば良いと言った話だが、俺は本気だ。だから……考えておいてほしい」  そう言って松原は、再び金魚鉢に視線を向けた。

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