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 帰り際に松原は念を押すようにして、祐介が来たら自分を呼ぶようにと言ってきた。  春夜は頷いたが、これは自分の問題だ。けじめをつける意味でも、自分でこの問題に決着をつけたかった。  年始の営業が始まる前日にキミヨが営業の準備のために顔を出し、春夜は新年の挨拶とお礼を言った。  別にいいと素っ気なく言い放つキミヨに、松原のことを聞こうか迷ったが触れないままにした。  営業再開からしばらくして、祐介が店にやってきた。  祐介はずかずかと我が物顔で案内した部屋に入っていき、そうそうに奥座敷の襖を開いた。 「祐介。先に話がある」 「なんだよ。こっちは金払ってるんだから、さっさとしろよ」  不機嫌さを顔に滲ませ、祐介が振り返った。 「これで、最後にして欲しい」 「お前……自分が何言ってるか、分かってるのか?」  信じられないといった表情の祐介に、春夜はゆっくりと頷いた。 「……ここを辞めようと思ってる」  松原と過ごした正月以来、自分はきちんと客をもてなせなくなってしまった。  誠実な態度で接してくる松原に対して、自分がしていることが不誠実なことのように感じてしまい、接客が上手くできずにいた。

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