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抱かれながら松原のことが脳裏を過ぎり、胸にずっしりとした罪悪感が沸いてしまう。熱を持たない体を見て、客が不満を抱き始めるのもそう遠くないはずだ。
このままでは、店の評価も落としかねない。長い間、自分を雇ってくれたこの店の不利益になることはしたくはなかった。
「潮時なんだ……僕も」
母がここを去るとき、一体どんな気持ちだったのだろう。ふと、そんな疑問が沸いた。
「勝手なこと言うな! 母親はどうするんだ? あの男もどうなってもいいのか?」
声を荒げて喚き散らす祐介に、春夜は緩く笑みを浮かべた。
結局、裕介は母親のことなど何も知らなかったのだ。松原という脅しの材料を手に入れて、母親のことなんか知るわけがないと吐き捨てた。どうせそんなことだろうと思っていたせいか、そんなにショックは受けなかった。
「母親はもう来ないよ。それにあの人も来ない」
「俺はあいつの会社を知ってる。バラされてもいいのか?」
「僕がここを辞めれば、彼は二度とここに来る必要はなくなる。最初からこうすればよかったんだ」
なんでもっと早くに、気づかなかったのだろうか。ここから離れれば、松原も守れるし裕介からも離れられる。
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