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「ここを辞めて、お前はどうするつもりなんだ? その体でしかお前は役に立たないじゃないか。まさかあの男のところにでも行くつもりなのか?」
裕介の続けざまの問いかけに、春夜は首を横に振った。
「僕は……あの人の所にはいけない」
松原は傍に居てくれさえすればいいと言ってくれた。自分も彼が好きで、傍にいたいという気持ちはある。でも怖い。好きになればなるほど、その気持がどんどん恐怖に上塗りされていく。
今は自分を好きだと言ってくれていても、一年後、五年後、十年後。歳を重ねて、心変わりしないとは言い切れない。どんなに真面目な松原だって、目が覚める時が来るかもしれない。
「それなら俺のところに来い。お前のことはガキの頃から知ってる。今更、性格がねじ曲がってることぐらい構わない」
不機嫌さを滲ませ、裕介が手を伸ばしてくる。それを避けるように、春夜は身を引いた。
「祐介の所にも行くつもりはない」
「おまえ――」
祐介の表情が怒気を孕む。
ずかずかと近づいてくる祐介から逃れようと、春夜も後ろに下がった。
ざらついた壁に手が触れる。逃げ場を失い、間近に祐介が迫った。
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