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「こんな事して、どうなるか分かってるの? 祐介だって会社にバレるんじゃないかって考えないわけ?」  着物の襟元を掴まれ上体が浮くと、平手打ちが飛ぶ。打たれた箇所がヒリヒリと熱を持つ。 「今度は俺を脅すってわけか? 春夜、てめぇー、いい度胸してんじゃねぇーか」 「暴力でしか支配できない奴のところに行くわけないでしょ。それに僕はお前が嫌いだ」  グッと首を絞められ、春夜は祐介の手に爪を立てた。一向に緩まない手に、本気で殺しにかかっているのだと分かる。  躊躇ない締め付けから逃れようと踠いているうちに、足がちゃぶ台にぶつかる感触がした。  盆のお菓子がひっくり返り、畳に落ちる鈍い音。畳をする着物の激しい衣擦れ。  徐々に狭まっていく視界の中、襖が開くのが目の端に映る。  伸びた光が斜めに畳に映り込み、滲む視界が水槽に差し込む光のようにゆらゆらと揺れて見えた。

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