127 / 136

127

「でも、僕は――」 「あんたは間違っている」  ハルヤの言葉を遮るように、キミヨが鋭く言い放つ。 「あんたは自分だけが、傷つくことを恐れてるだけだ。なにがこの人を幸せにできないだ。自惚れるのも大概にしな。あんたねぇ、この人はあんたのことを好きで一緒にいたいからってだけで、そう言ってくれているんだよ。他の誰でもない。あんただからそう言ってるんだ」  キミヨの視線が松原に向けられる。違うのかと聞かれているようだった。 「ああ。君だから俺は、来いって言ったんだ」  松原もキミヨの隣に腰を下ろす。悄然としているハルヤの様子に胸が詰まった。 「あんたが黙っていなくなったら、この人が悲しむとは思わなかったのかい? あんただって、辛い思いしてきたじゃないか。だからここで働いてきたんだろう」  皺の多いキミヨの手が、膝の上で固く握られている拳の上に重なった。  ハルヤが目を見開き、信じられないといった表情を浮かべる。 「あたしはね、あんたにはここじゃなくて、ちゃんとした場所で幸せになってもらいたいんだ」 「……キミヨさん」  ハルヤの口から嗚咽を溢し、止めどなく涙を溢れ出す。その肩をキミヨが優しく抱いた。

ともだちにシェアしよう!