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「大丈夫だよ。ハルヤ。この人には私から口酸っぱく言ったんだ。この子に二度も同じ目に遭わせたりでもしたら、指の一本じゃあ済まないからってね」
キミヨが宥めるように、ハルヤの背をさする。
松原がキミヨに直談判しに行った時。キミヨは不機嫌そうな表情で「本人の意思だからあたしには関係ない」と言いつつも、帰り際には「不幸にしたらただじゃおかないからね」と言ってきたのだ。冷たい態度の裏側には、親心に等しい思いがあったのだろう。
「ハルヤ。後はあんたの気持ち次第だよ。この人はあたしの所に来て、頭を下げたんだ。それだけの誠意を見せてきた」
キミヨがハルヤから離れる。ハルヤが少し赤くなっている目で松原を見た。
姿勢を正し、手を畳に付くと深く頭を下げた。
「こんな僕ですが……よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
ハルヤの肩に手を触れ、顔を上げさせる。
こんな風にかしこまられてしまうと、なんとも落ち着かない。
「あんたらに付き合ってたら、もう店を開ける時間じゃないか。あたしは忙しいんだからね。後は二人で始末をつけな」
そう言い残して、キミヨはさっさと腰を上げた。
「本当にうちに来てくれるか?」
キミヨの手前、そう言っただけかもしれない。そんな不安に思わず問いかけた。
ハルヤは赤らんだ目で松原を見つめると、コクリと頷いた。
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