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急な状況に迎え入れる準備もままならないまま、週末にはハルヤを迎えに松原は店へと足を向けた。
昼に出向くのは初めてで、夜と真逆な雰囲気に驚く。
どうやらこの時間帯になると、料亭として営業している店もあるようで、外にはお品書きが置かれていた。
夜になればこの界隈が一気に、色恋に満ちた場所に変わるなどと想像がつかない程に静かで風情がある。
店に着くと松原はキミヨに案内され、ハルヤの部屋へと向かった。
ハルヤはぼんやりとした目で金魚鉢を見つめ、松原が中に入ると視線が向けられる。
ボストンバッグが傍に置かれ、いつでも出れるようにしているようだった。
「大丈夫か?」
「えぇ。問題ありません」
そう言ってハルヤは口元を緩めた。少し肩に力がはいっているのは、新たな生活に緊張しているのだろう。
「こいつらの引越しもしなきゃならない。餌はやったのか?」
「はい。朝一番に」
松原は頷くと金魚鉢の水をビニールに移し、そこに金魚を移動させていく。酸素スプレーで空気を入れてから口を結ぶ。
その光景をハルヤは物珍しそうに見つめていた。
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