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「ずっとだなんて、そんなの無理ですよ」
「俺は無責任な男じゃない。これまでだって、何匹もの熱帯魚達を見送ってきたんだ」
「結局は魚なんですね」
「君も魚って言うんだな。何でもかんでも魚と一括りにされるのは心外だな」
ムッとした口調で松原が言い返すと、ハルヤが声を上げて笑った。
「面倒くさい人だって、よく言われませんか?」
「……言われたことがない」
「なら、みんなそう思ってて言わないだけです」
意外とはっきりと言う性格に驚いたが、これが素なのだと思えば悪い気はしなかった。
緊張が解けたのか、ハルヤは目元の涙を拭いながらも笑みは消えていない。後ろめたさがあった分、松原も肩の力が抜けていく。
穏やかな雰囲気のまま界隈の入り口に来ると、ハルヤが足を止めた。
「もう……僕はハルヤではなくなるんですね」
そう言って背後を振り返った。まるでタイムスリップしたような、古い木造の建築物が立ち並ぶ大通りが一直線に伸びている。
「辛いこともあったけど、ここで学んだことも多かったと思います。僕はここに来たことを後悔はしていません」
どこか清々しい表情でハルヤは言った。
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