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「ああ。君がそう思うなら、良い経験だったのかもしれないな」  松原はそう言いつつも、どこか胸のつっかえが残っていた。  いくらハルヤと出会えた場所とはいえ、全てを肯定できるほど心は簡単には変われない。それでもハルヤの意見を否定するほど、自分はこの世界を理解していなかった。 「本当の名前……言ってはいなかったですね」  松原が頷くと「春夜といいます」と言って、「本名を口にしたのは何年ぶりだろう」と呟いた。 「春の夜って書いてシュンヤと読みます。源氏名は漢字の読み方を変えただけなんです」 「あの支配人が決めたのか?」 「はい。僕は十八歳でこの業界に入りました。前にもいいましたが、母を探しに……同じ店では男は雇ってないと言われたので、今の店にしました」 「母親を探しに来るだけならまだしも、なんで同じ道を歩んだんだ?」  以前から気になっていることだった。探すだけなら、店の人間に聞けば済む話だ。 「僕はこの体でしか、価値がないからです」  そう言って、ハルヤはゆっくりと語り出す。  学生時代にあった周囲からの卑猥なからかい。逃れるために交わした裕介との取引。  語られていく内容に、松原は愕然として言葉を失った。

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