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生きていくための術として、彼は自分の身を捧げてきたのだ。下手な慰めや同情は、かえって彼の自尊心を傷つけるように思え、松原はそうかとだけ言って口を閉ざす。
休日の賑やかな駅に着くと、松原は切符を買ってハルヤに手渡した。
「電車なんて久しぶりです」
電車に揺られ、ハルヤが少しはしゃぐように言った。
「休みの日に出かけたりしないのか?」
「店の子と遊んだりしなかったので。こういう仕事だからか、あまり互いに干渉したりしなかったんです」
どこか寂しげな口調のハルヤに胸が痛んだ。
「これからは色んなところに連れて行ってやる」
今まで出来ずにいた事。それを自分が補ってやるのも、ハルヤを引き取った自分の責任でもある。
「はい。楽しみです」
都会のビル群が車窓の外をどんどん流れていく姿を背景に、ガラス窓に少し泣きそうな笑みを浮かべたハルヤが映し出された。
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