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2 客

 今日も来ている、ノリの煩い学生客。まだ若い彼らは店の雰囲気を察することなく、毎回場違いな感じで盛り上がっていた。  このバーの店主である俺、塚原 悠(つかはら ゆう)は、何度目かの彼らの来店に正直少しうんざりしていた。  この店は普段から客も少なく、静かに飲んでいる人が多い。常連に「今日は賑やかだね」などと言われてしまえば苦笑いをするしかなかった。なんで毎回この店に来るんだ? 煩わしいと思いながら俺は酒を作る。  頭が痛い──  今夜もバイトに任せている店に少し遅れて来てみると、賑やかに盛り上がってる男数人のグループが来店していた。彼らはここ数週間のうちに何度か来ていて、困ったことに常連になりつつある。店を気に入り常連になってくれるのは嬉しいことだけど、この賑やかさはどうにもいただけなかった。様子を見ていると、よその居酒屋ででも呑んでいて、その後の二次会的な勢いでこの店に足を運ぶようだった。だから毎回毎回、初めから賑やかに盛り上がっているのだろう。 「いつもありがとうございます。お客様、いつも顔ぶれが同じ様子ですが、どんな集まりなんですか? 仲良くて楽しそうですね」  俺はテーブルの灰皿を変えるついでに話しかけてみた。客達は一斉に俺の顔を見上げ、一瞬時が止まった様に静かになった。 「あ! うるさいですよね? すみません。あ、あの……烏龍茶をひとつ下さい!」  グループの中の一人が、真っ赤な顔をして慌てたようにそう言った。 「烏龍茶ひとつね。かしこまりました」  俺は注文を受けると、カウンターの中へと戻った。 バイトに先程の烏龍茶を頼むと、少し休憩をしに裏口から外へ出る。室内の休憩室でもいいのだけれど、気持ちを切り替えるため外の空気に触れたかった。やめていたはずの煙草もここで吸う。長く禁煙できていたはずが、いつの間にか復活してしまっていた。  冷たい風が頬を掠める。店内の喧騒が微かに漏れ聞こえ、外との対比に耳をすます。自分の吐く白い息をぼんやりと眺めながら、寒さに腕を軽く摩った。  頭上へと立ち上がっていく煙を眺めているとさっきの客たちが帰るのだろう、表が少し騒がしくなった。これでやっと静かになるな、と思いながら、俺は灰皿に短くなった煙草を押し付けた。  挨拶をしようと店の前へまわると、思った通りに先程の彼らが店の入口で屯していた。俺は店内に戻るついでにまた彼らに声を掛ける。店の前で騒がれるのも嫌だし、正直早くこの場から去ってほしかった。 「もうお帰りですか? いつもありがとうね……お気をつけて」  グループに軽く声をかけると、烏龍茶を頼んでいた男がいないことに気が付いた。酒に酔い一人で先に帰ったのか、それとも店内に残っているのか。酒ではなく烏龍茶を頼んでいたくらいだ、もし後者なら酔い潰れている可能性もなくはない。 「あ、ご馳走さまでした!」  俺の疑問をよそに、元気よく手を振りながら彼らは賑やかに帰っていった。  店内に戻ると烏龍茶の彼がカウンターの所でキョロキョロしている。幸いなことに酔い潰れていたわけじゃないらしい。 忘れ物でもしたのかな? 誰かを探しているようにも見えなくもない。まさか置いていかれたのかな? そう思ったら少し不憫になった。 「君、どうしたの? みんなはもう行ったよ。忘れ物かな?」  後ろから声をかけると、面白いくらいビクッと体を震わせて驚いた顔をして俺の事を振り返った。 「あ! あ、あ……いや、忘れ物じゃなくて……あの、いつもうるさくしてすみません。今日もご馳走さまでした!」  びっくりするほど元気よくそう言うと、ぺこりと頭を下げドタバタと店から出て行った。それを言うためだけに店に残っていたのだろうか? ちょっと変わった奴だな、と思いながらも悪い気はしなかった。

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