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4 思い出す
夜、なんとか重たい体を起こし店に向かった。
薬が効いたのか、熱は下がっていたから後は気力で何とかする……そう、いつもそうしてきたから大丈夫。俺は頭の中で自分を鼓舞した。
「あ……悠さん、遅かったですね」
この店で長く俺を助けてくれているバイトの元揮 君が心配そうに顔を上げる。
「ごめんな、ちょっと体調悪くて少し寝てた」
こういうことを言うと元輝君は少しうるさくなる。心配してくれているからこそなのだとわかってはいるけど、思わず報告する声が小さくなった。
今日はまだ常連客が一人カウンターにいるだけ。目が合ったので俺はその常連の紳士に笑顔で会釈をした。
「悠さん大丈夫なんですか? 無理しないで下さいよ。また倒れられても困りますからね! ……はい! ここは平気だから裏で休んでてください。後から太亮 も来ますから」
さっさと出ていけと言わんばかりに体を押される。太亮というのも雇ってるバイトの一人。この二人に助けられながら、俺はこの小さくて暇な店を回していた。
「ありがと。ならそうさせてもらうわ。何かあったらすぐ呼んでね」
やっぱりダルさには敵わず、元揮君の言葉に甘えて俺は事務所で休むことにした。
ソファに腰掛け、背もたれに寄りかかる。横になれるくらい大きなソファならよかったのに。窮屈に斜めに体を任せ目を瞑っていると、いつの間にか入ってきた元揮君が目元に冷えたタオルを乗せてくれた。突然で少し驚いたけど、火照る頭に気持ちがいい。
「サンキュ」
「水も置いておきますからね……あ、お茶の方がいいですか? 本当、何かあったらすぐに呼んでくださいね。今日は一段と顔色悪いから、無理しないでくださいよ」
元輝君の「お茶」と言う言葉がなぜか頭に引っかかった。
「ああっ! そうかっ!」
思わず大声を上げてしまった。部屋を出ようとしていた元揮君は俺の声に驚いて飛び上がる。
「何ですか? もぉ〜びっくりした…… 」
「ごめんごめん、こっちの話」
自分でも驚くくらいの閃きだった。見覚えのあるあの男。俺のことを見ていたと言う怪しい男。霧が晴れたようにスッキリした。
あれは最近よく来る学生グループの烏龍茶の男だ。店で見るより随分と大人っぽく感じ、雰囲気が全然違っていた。俺が勝手に「大学生」だと思っていたけど、もしかしたら違っていたのかもしれない。彼が学生でも社会人でも、今度また来店したらお礼を言わないとな、そう思いながらもう一度冷えたタオルを目元に置き直し、目を瞑った。
そういえば……と、最近来なくなってしまったある男を思い出す。
長年煩っていた、俺の片思いの相手。顔を見せないと言うことは、彼氏との仲が順調な証拠だ。二人が仲良くしてるのを見るのはまだ少し複雑だけど、でもたまには顔が見たいとも思ってしまう。そんなことを思うのは、きっと心身ともに自分が弱ってるいるからだろう。一人でいるとついつい色々なことを考えてしまう。
「……わかりやすすぎだろ」
嬉しそうにはにかむあいつの顔を思い浮かべ、俺は複雑な気持ちになった。
「悠さん、体調どうっすか? お休みのところすぐに呼びにきちゃってごめんなさい。あの、ちょっといいですか? なんかお客さんが悠さんの事聞いてきて……」
ドアを開け顔を出した元揮君が困ったようにそう言った。
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