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5 烏龍茶の君
「あの、多分新規さん? なんか一人で来てる客が、マスターは店に来てるか? とか、具合悪くしてないか? とか、いろいろ聞いてくるんすよ。悠さんの知り合いかな? って思って呼んで来ましょうか? って聞いたら、それはいいって言うから、なんかおかしいなって思って」
元揮君が「ちょっと気持ち悪いっすよね」なんて心配そうに報告してくる。
それもそのはず……
元揮君がこの店に来てから俺は二度ほど、ストーカー紛いな被害にあっていた。待ち伏せされてつきまとわれたり、店に通い詰めてた客が急に俺の恋人だと言い、ある事無い事ふれ回ったり。そんなトラブルがあったのを知っているから、また警戒をしてくれているのだろう。そして元揮君は俺がゲイだという事も知っている。
でも、今言った元揮君の言葉を聞いて俺はピンときた。俺の体調を気にしているという事はきっと彼だろう。
「多分それ、新規の客じゃないよ。俺の知ってる奴だと思うからすぐ行くよ。知らせてくれてありがとう」
元揮君にフロアへ戻るよう言うと、俺は起き上がり乱れた髪を整えた。もうフラつかないし、頭痛もだいぶ和らいでる。これなら休まなくても大丈夫だった。
フロアに戻ると、元揮君と太亮君が二人でのんびりと店を回していた。客は相変わらず、カウンターの常連客ともう一人の男性客が離れて座っている。 奥のテーブルにはカップルらしい男女二人が楽しそうにイチャイチャしていた。
カウンターに座る客を見て、やっぱりな……と思った。
「なに? 俺のこと心配して来てくれたんですか?」
カウンターから少しだけ体を乗り出して、その男の事をジッと見る。
「そりゃ心配しますよ……あんなに顔色悪くてフラついてるんですもん。あれからちゃんと帰れましたか?」
「………… 」
やっぱり彼を見て違和感を感じてしまう。以前のあのオドオドした烏龍茶の彼とは別人みたいだった。髪型だけじゃなく、服装もだいぶ雰囲気が違っていた。
「さっきは本当、ありがとうございました。助かったよ」
一応、倒れそうになった俺を支えてくれたお礼をした。
「なんだ、悠さんの知り合いだったんですね。悠さん呼ばなくていいなんて言うから」
話していると横から元揮君が割り込んでくる。
「………… 」
「あれ? 何か俺、変な事言いました?」
急に黙ってしまった烏龍茶の彼を見て、少し気まずそうに元揮君が言った。彼からしてみればもう何度もこの店に来ているし、元輝君とも会っている。
「元揮君。わからない? 彼、この店よく来てるよ」
俺が元揮君にそう言うと、驚いた顔をして「え? そうなんすか?」と首を傾げた。
「ね? わからないよね。だって……ねぇ、君、前とだいぶ雰囲気違うよね? どうしたの? 凄いイメチェン。あ、もしかして双子とか?」
しばらく黙っていたけど、俺が双子なんて言い出したから、烏龍茶の彼は可愛い顔でふふっと笑った。
「双子じゃないですよ。はい、イメチェンしてみました。少しは大人っぽくなったかな。俺自身は満足なんだけど……どうですか? 悠さん」
「えっと……」
「あ、すみません。悠さんって呼んじゃった。マスターの名前、悠さんって言うんですよね。お近づきの印に、俺も悠さんって呼んでいいですか?」
元揮君だけ、わけがわからないといった顔をして俺を見ている。そのポカンとした顔が面白くて、思わず元揮君の頬を指でつまんだ。
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