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6 純平君

 俺に頬をつままれた元揮君が「ひゃ、やめて」と情けない声を上げる。 「あはは、ポカンとしてるから。元揮君、面白い」  手を放してやると、頬をすりすりしながらふくれっ面をする元揮君。そんな元揮君から視線を戻し、俺は烏龍茶の彼の方に向き直った。 「俺の事、名前で呼んでくれもいいけどさ、まずは自分、自己紹介じゃないかな? 俺、まだ君の名前も知らないですよ」  最近よく来る、大学生らしきグループの中にいる少し気の弱そうな彼。きっと酒も弱いのだろう。最初の一杯の後、お代わりを頼まれた記憶が俺には無い。それでも今、目の前にいるこの男はそんな印象とは真逆の雰囲気を帯びていた。積極的で明るく社交的。見た目も大人びている。そんな不思議なこの男に少なからず興味が湧き楽しかった。 「俺は純平(じゅんぺい)って言います。渡部純平(わたべ じゅんぺい)。最近よく友達とこの店にきてるけど……わからなかったかな? えっと……元揮さん?」  元揮君は少しだけキョトンとしてから、やっと思い出したのか「あっ!」と大きな声をあげた。 「あの賑やかなグループの! ……え? なんか雰囲気違くねぇっすか? わかんなかった。てか、学生さん?」 「ね、元揮君もわからなかったよね。イメチェン大成功だね。純平君は学生さんですか? それともお勤めしてるのかな?」  純平君。  この様子だと今後も一人ででも来店してくれそうだと思った。俺はもう少し距離を縮めるように更に話しかけた。 「はい。学生ですよ。いつも一緒なのは同じ大学の先輩です。先輩達がこのお店の雰囲気が良いって言って一緒に来たんです。そしたら悠さん……が」 「ん?……俺?」  純平君は何かを言いかけ、すぐに話題を変えてしまった。 「どうですか? 俺……少しは大人っぽくなってます? よくガキ扱いされるのが嫌で、まぁ、でもその通りなんですけどね。だから見た目くらい大人っぽくなりたいなって思って」  はにかんだ笑顔は言う通り幼く見え、まだまだ高校生だと言ってもおかしくない。よく見るとやっぱり一生懸命背伸びしてるようにも見える。 「うん、凄くカッコいいと思うよ。でも無理をするのはよくないな。こういうのは経験を積んで変化していくものだからね。そんなに焦る事はないですよ」  俺は思ったままそう言うと、純平君は少しだけ寂しそうな顔をした。でも今のままでも十分魅力的だと伝えると、素直に「ありがとうございます」と笑った。  それからまた数日後、思った通り純平君が一人で店に来た。 「いらっしゃい」 カウンターの端の席に座った純平君の前まで行き、俺はいつものように声をかける。前回とは打って変わり、彼の表情には覇気がない。 「こんばんは……」 「純平君、今日も一人なんだね……何飲む?」 「あ、えっと、烏龍茶を」 「あれ? お酒じゃなくていいのかな?」  元気がないのが気になったけど、俺はそれには触れず様子を見る。 「いや、俺あんまりお酒強くなくて」 「なら、アルコールを控え目にして何かお作りしましょうか?」  そう言うと「じゃぁお願いします」と、純平君はにっこり笑った。  最後に烏龍茶一杯をちびちびと飲み、少しの時間俺と他愛のない会話をしただけで純平君は帰っていった。  この日を境に、純平君はあのグループで来ることも、一人で来店することもなくなった。

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