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8 腐れ縁

「お久しぶりですね。陸也さん最近来ないから悠さん、寂しがってましたよ」  どこから出てきたのか、元揮君が横から顔を出して余計な事を言う。陸也が志音と付き合ってるのは知っているはずの元輝君が発した言葉は、陸也にも俺にも失礼にあたると内心少しイラついてしまった。  勿論冗談のつもりなのはわかっている。自分が神経質になってしまっているのもわかっている。俺が落ちている時、一番気にして気を遣ってくれてたのも元揮君なだけに、デリカシーがないな、なんて思ってしまった。 「うん、わかってるよ。そろそろ悠も寂しがってるかなぁって思ったから来てやったんだよ」  陸也が笑顔で答えるのを見て、一人ムッとしてしまう俺。二人の調子に合わせ、そんな気分を笑顔に隠した。 「よく言うよ。違うだろ? 可愛い志音にフられたから、手頃な奴に構ってもらいに来たんだろ?」 「そうそう、そういう事だな」 三人で顔を合わせ笑い合った。俺にとっても陸也にとっても、ずっと昔から変わらない、付かず離れずな適度な距離。でも大切な「友人」。 「陸也さんがこの店に来始めてからずっと思ってたんすけど、本当に仲良いですよね? 二年くらい前でしたっけ? 俺がバイト始めてからすぐですよね」  元揮君の質問に、少し考えて陸也が答える。 「ああ、うん。またこの店に来始めたのは二年くらい前だな。でも、その時もかれこれ四年ぶり? ……どうだったっけ?」  指を折りながら陸也が俺の方を見た。そう、元輝君が言う通り、久しぶりに店に来たのが二年前だった。でも正確にはその時は四年ぶりだ。  陸也が大学を卒業した頃に俺たちは再会し、すぐに陸也は俺の店に通うようになった。そして一年程経つとバッタリと来なくなった。忘れた頃に志音が来るようになり、少し経つとまた陸也が顔を出した。その時がそう、四年振りの陸也の来店。 「そうだな。再会してからかれこれ六年も経つのか。何だこの腐れ縁……飽きずによく来るな。もっと高い酒頼めよ」 「はは、 俺は好きなのしか飲まねぇんだよ」  横で聞いていた元揮君が笑いながら口を挟んだ。 「本当に仲がいいんですね。 親友ってやつ? なんか羨ましいな。俺、親友なんて呼べる奴、多分いないもん」  少々いじけ気味にそう言う元揮君を陸也が慰めた。 「よしよし、そんなしょげるな。お前なら友達多いだろ? 大丈夫だよ。いざとなれば色々親身になってくれる奴だっているさ」  そう言いながら、カウンターから身を乗り出して元揮君の頭を撫でる陸也を横目で見る。肩をすくめ嬉しそうに笑う元輝君を見て、陸也の手は大きくてあたたかいことを思いだす。    そう、俺もあの手に……  俺は初めて陸也に触れた日のことを思い出していた──

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