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10 恋の始まり/カミングアウト

 それからというもの、その友達の家にしょっちゅう遊びに行った。勿論そいつの弟が高坂と一緒に家にいるタイミングが合えば、偶然を装って近づくことができると思ったから……  そしてそのチャンスは意外にあっさりと訪れた。  すぐに俺は友達の弟に親しげに話しかけ、弟とも高坂とも仲良くなった。下心満載で気のいい先輩ヅラをして近づき、高坂の事を下の名前 で「陸也」と呼べるようにもなった。  俺は、他の奴らと同じに「先輩」一括りにされるのが嫌で、「陸也は特別、俺のこと悠って名前で呼んでもいいよ」と親しみやすさをアピールした。敬語だって必要なかった。陸也との先輩後輩の壁も早く取っ払えるように、緊張しながらも頑張って遊びにも誘った。  今思い返すと凄い執着だったと思う。  受験で忙しそうに勉強してる周りなんか全く目に入らず、俺は陸也に夢中になっていた。話せば話すほど、接すれば接するほど、陸也は魅力的で男前だとわかり、ますます好きになっていった。それでも俺は友達として、親友として、近くに居られるだけで十分だった。  それだけで幸せだったんだ。  陸也の悩みを打ち明けられるまでは──  陸也と仲良くなり、二人きりでもよく遊ぶようになってからしばらく経った頃、陸也が深刻な顔をして俺に言った。 「聞いてもらいたいことがあるんだけど……ちょっといいかな?」  この時の俺は、同級生の友達との誘いや女友達のデートの誘いなんかを全部断っていて、いつでも陸也の誘いに乗れるようにしていたせいで周りから付き合いが悪くなったと文句を言われていた。だから深刻な顔の陸也を見て「もう誘うな、遊べない」そういった類の拒絶の言葉をかけられるのかと思って怖かった。  俺の部屋でなかなか話出さないことにイラつきながら、早く話せと陸也を急かす。 「なんだよ、言いたい事あんなら早く言えよ。俺は気にしねえから……」  強い口調でそう言うと、陸也が顔を赤らめて小さな声で呟いた。 「俺さ……多分、多分恋愛対象男かもしれない……」  陸也の言葉に俺は耳を疑った。  思ってもいなかった陸也の告白。陸也も俺と同じ? でも「多分」と言っているという事は、まだはっきりとしないのだろう。あの頃の俺みたいに、きっと認めつつも確信は持てていないのだ。  何か言葉を待っているような陸也の視線にどうしたって心が躍る。嬉しくてにやけてしまうのをグッと堪える。こいつは悩んでるんだ。いつになく真剣な顔をして……  こうも簡単に他人にカミングアウトできるなんて、陸也の純粋さに驚かされる。いや、きっと悩みに悩んでその悩みを打ち明ける相手に俺を選んだのだ。それを思ったら、陸也が愛おしくてしょうがなかった。 「悠さん……ごめんな、変な事言って。俺、親もいないし、こんな事言える人いないし……悠さんなら俺のこと引かないで聞いてくれるかと思ってさ」  シュンとし俺を見る陸也。謝らなくていいんだ。打ち明ける相手に俺を選んでくれてありがとう、そう心の中で感謝しながら首を振る。 「謝んな……ごめんな、びっくりしてちょっと黙っちまった。大丈夫だよ、俺はそんなことで引かないよ。だって俺も陸也と同じだから……」  自分でもびっくりするくらい、俺もすんなりと陸也にカミングアウトしていた。

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