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13 初めての男
俺がこの店を持つようになり、軌道に乗ってきた頃にひょっこり陸也が現れた──
驚いた……
高校時代よりも背も伸びて、陸也はぐっと男前になっていた。ただ、高校時代の素直そうなあの笑顔はなくなっていた。
友人と飲んでいて、飲み足りないからと別れた後にたまたま一人でこの店に訪れたのだと言って笑っていた。
こんな偶然あるのか、と、笑うしかない。
陸也は俺があの頃から全然変わってないと大喜びをし、この店に通うようになった。俺は時折寂しげな笑顔を浮かべる陸也が気になってしょうがなかったけど、頻繁に店に訪れてくれるのは素直に嬉しく思っていた。
「彼氏はいないの?」
何度目かの来店時に、俺は思い切って聞いてみた。
驚くほど凄く男前になっている陸也。ひとめ見れば沢山の経験を積んだのだろうとわかる。それなのに「彼氏なんて出来るわけないじゃん」と即答する陸也に思わず笑ってしまった。
「モテそうなのに……理想が高いのかな?」
特定の奴は作らない主義なのか……
「いや、理想が高いとかそれ以前に俺はゲイだよ? こんな人間にまともな恋愛なんて出来ないだろ? 別に期待してないし。寂しい時に誰かを抱ければそれで満足」
会っていない間、陸也はどんな恋愛をしてきたのだろうか。きっと辛い思いもしたのだろうな。そう思ったら俺は「そうだな」と共感し、一緒に笑うことしかできなかった。
「そしたらさ、今度から寂しくなったら俺を抱きなよ」
自分でも驚くほどすんなりと言葉に出していた。陸也がただ寂しさを紛らわせるために俺の知らない奴を抱くなんてさせたくなかった。嫌だった。
「いいの? 悠さん恋人いるんじゃないの?」
少しだけ驚いたような顔をして陸也が言う。
恋人……そんなの今まで一度だっていた事なんてない。
「ううん、今はいないよ。安心して…… 」
その晩俺は陸也に抱かれた──
陸也は思った通り手慣れた様子で、蕩けるほどに丁寧に俺を抱いてくれた。俺は何もかも初めてだったけど全く怖くはなかった。
「悠さん……よかった? 悠さん色が白くて凄え体綺麗……興奮してくると肌がピンク色に染まってくの、色っぽい……よく言われるでしょ?」
俺の上で嬉しそうに陸也がそう言いながら首筋にキスを落とす。
「ん……てか、悠さんじゃなくて悠でいいよ……悠って呼んで」
そう言って、恥ずかしさを誤魔化すように俺の方からキスを強請った。
よかったも何も、俺にとってはお前が初めての男なんだよ。
裸を晒したのだって陸也が初めて。緊張でどうにかなってしまいそうだったけど、そんな素振りは絶対に見せられなかった。
「悠……綺麗だよ 」
男なのに綺麗だなんて言われ、こそばゆくなった。過去で止まっていた俺の初恋がまた動き出したように感じた。
まるで愛おしいものに触れるかのように、優しく優しく俺を撫でる。そして陸也はもう一度、優しく丁寧に俺を抱いた。
事が終わってから、俺は陸也に気づかれないように少しだけ泣いた。
嬉しかった気持ちと、虚しさに胸がどうしようもなく苦しくなった──
それからというもの、陸也はよく店に飲みに来ては俺を抱く。
好きだ……
愛してる。
そんな愛の言葉は一度だってもらえなかったけど、人肌恋しくなった時には俺を求めてくれ、この時だけは陸也は俺を見てくれるのが嬉しくて、俺は只々幸せだった。
こんな生活が一年ほど続き、そして突然、パッタリと陸也は姿を現さなくなった。
いい奴でもできたのだろうか。付き合っていたわけではない、所謂「セフレ」の関係だった俺は、あっけなくこの関係を解消された。
今度こそ、俺の片思いは終わりを告げた。
求められ、幾度となく体を重ねてもなお、俺は陸也に告白をする事が出来なかった……
「え? 本気だったの?」
そんな風に拒絶されるのが怖くてしょうがなかったんだ。
拒絶されるくらいなら、気持ちはなくてもそばにいられる方がずっとよかった。
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