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14 笑顔

 少し懐かしく陸也との出会いを思い返していると、元気の良い声に現実に引き戻される。 「腐れ縁だよな。 高校からの付き合いだもん。な? 悠」  目の前の陸也が笑って俺にそう言った。 「高校からって……悠さんと陸也さんって今幾つなんですか?」  元揮君が驚いた顔で俺たちに聞いた。  腐れ縁……  そうだな。俺はずっと片思いだったけど。  とっくに吹っ切れていたと思っていたけど、また昔のことを思い返していたら嫌な気分になってしまった。思い返せば思い返すほど、自分が女々しく情けないと思う。なんでこんなにも長い間、ひたすらに思いを閉じ込めてきたんだろうな。  馬鹿みたいだ。笑っちゃう…… 「そういやさ、初めてここ来てから一年くらいはよく通ってくれたじゃん? それでも急にパッタリと来なくなったけど、どうして? その後また四年ぶりだって言ってさ、来てくれた時は嬉しかったけど、陸也その事には触れなかったから、ちょっと気になってた……」  思い出したついでだ。俺は気になってた事を思い切って聞いてみた。  陸也は少し困ったような顔をして首を傾げる。 「……いや、別にこれといって理由なんかないよ。そうだなぁ、ちょっと忙しくなったからかな?」  その顔は何かを誤魔化しているようにも見える。何か引っかかるところがあったけど、今更ぶり返すような事でもないし、第一陸也は今幸せにしているんだ。変に記憶を呼び起こしてないで、俺も早く前に進まないとな、と小さく笑った。 「独特な雰囲気……聞いていい? おふたりって付き合ってた事あるんですか?」 「………… 」  元揮君はズケズケと嫌な事を言う。あれだけ仲がいいとか羨ましいとか言われていたんだ。そう思われてもしょうがないのか、と陸也を見た。 「そう見える? 付き合ってはいないんだよね。俺はいつでもウエルカムだったんだけどな、悠は俺なんか相手にしてくんなかったから」 「そうだな。陸也はガキっぽかったからな」  調子の良いことを言う陸也に合わせ、俺も軽口を叩いた。当時はそんな素振りなんて一度も見せたことはなかったくせに……  そんな過去の思い出話に盛り上がってるところで志音が店に到着し、陸也はデレデレしながら帰っていった。 「悠さん?」  心なしか真面目な面持ちの元揮君が俺の顔を覗き込んだ。 「ん? どうした?」 「今日の悠さん、いい笑顔でしたよ」 「は?」  今日の俺は終始笑顔だったはず。たまに元輝君はおかしな事を言う。 「なに? いつも俺は笑顔じゃん」 「いや、悠さん最近疲れてるのかちゃんと笑えてなかったですよ。俺、悠さんの事よく見てますからわかります。他の人は誤魔化せても俺にはわかりますからね……」  何故か元揮君の視線が痛かった。 「大人をからかうんじゃないの」 「なんだよ、大人とか言ってそんなに歳違わないじゃないですか」 「いやいや大きく違うよ……」  口を尖らせて抗議する元揮君に店を任せ、俺は休憩をするために事務所へと引っ込んだ。  笑顔。  俺、ちゃんと笑えてるはずだよ。  ……なんで今更、そんな事言うんだよ。  頭痛がぶり返した気がして、俺はソファに座って目を瞑った。

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