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15 目眩

 俺の一日の始まりは昼前後。午後から買い物に行ったり家のことを済ませることが多い。そして夕方から店に出るのが常だった。体調を整えるため、だらけた体を鍛えるためにジムに行くこともある。そういう時は少し遅れて店に顔を出すんだ。ジムに行くのは体型維持と体力作りももちろんだけど、気晴らしのためも大きい。  今日も溜めてしまった洗濯物を全てやっつけてから、久々にジムに向かった。 「あれ? 塚原様お久しぶりですね」  馴染みの店員が笑顔で俺に声をかける。 「そうだね、先週は体調崩してて来られなかったんだ……」 「無理なさらないでくださいね。塚原様がいらっしゃらないと俺、寂しいですから」  俺の言葉に心配そうな顔をしてくれる。それが社交辞令だとしても、俺はこういう言葉を掛けられることがとても嬉しい。「ありがとう」と返事を返し、少し会話を楽しんでから俺はプールへ向かった。  ウォーミングアップを済ませて、今日は一時間ほど泳ぐ。泳いでいる時や、マシンで汗を流している間の無心になれる時間が俺は好きだった。  休憩を挟みながら適度に汗を流し、シャワーでさっぱりしてからまた日常に戻る。そのはずだったのに、今日はちょっと違っていた。  気がつくと見知らぬベッドの上。俺はふらつく頭で記憶を辿った。  一頻り泳いだ後、プールから上がり、ロッカールームへ行ってからシャワーを浴びに……その時急に目眩がして、おそらく俺はその場で気を失った。ああそうだ……となんとなく記憶を辿る。 「目、覚めましたか? 塚原様」  先程一緒にお喋りをしていた受付の店員が心配そうに俺の顔を覗いた。 「えっと……俺、倒れた?」  恐る恐る聞いてみると、赤い顔をして大きく頷く。 「もう! びっくりしましたよ! 幸いすぐ後ろを歩いていたお客様がいて、支えてくださったみたいで……貧血ですかね? まだ本調子じゃなかったんじゃないですか? はぁ……でもよかった。心配したんですよ」  倒れた俺を支えてくれた人がいると知り、平日の昼間ということもあり、人も疎らで空いていたはずなのに不幸中の幸いだとホッとした。 「悠さん、無理しちゃダメじゃないですか」  不意に後ろから別の声がして驚いた。振り返ると、怖い顔をした純平君が立っていた。 「え? 純平君? もしかして君もプールにいたの?」 「あ、お知り合いだったんですか?」  そう言って店員も俺と純平君の顔を見て驚いている。お互いスイミングキャップをかぶりゴーグルまでしているから、一緒のプールで泳いでいても顔まではわからない。 「俺も驚きましたよ。同じタイミングでプール上がって歩いてたら急に前でフラフラし始めるんだもん。間に合ってよかったです。もしかしてこれからお店ですか?」  険しい顔で俺の顔を覗いてくる純平君に、俺は小さく頷いた。 「え? ダメですよ塚原様、ちゃんと病院行ってください!」 「いや、よくあるんだよ。大丈夫……また酷くなるようなら病院行くから。ありがとう」  俺はベッドから立ち上がり、荷物を取りにロッカールームへ戻った。

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