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16 帰宅
俺が心配だからと、純平君は俺を家まで送ると言い出だした。いくら大丈夫だと伝えても「いいから」と納得してくれない。前回のこともあるからどうしたって無下にも出来ず、渋々家まで送ってもらうことにした。
大丈夫なんだけどな……と、俺は正直少し戸惑っていた。
「ああいうの、しょっ中あるんですか?」
歩きながら純平君が俺に聞く。そんなしょっ中ってわけじゃないけど、と思いながら俺は首を振った。
「そんな事ないよ。でも頭痛持ちだし、低血圧なのかな? なんとなく弱ってると目眩がするんだよね」
「お店って休めないんですか? 悠さん毎日のように仕事して……ちゃんと休めてます?」
ため息を吐きながら言う純平君に、余計なお世話だと思いながらも笑顔でお礼を言った。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
そんな事を話してる間に、マンションに着いてしまった。
「………… 」
「……上がってく?」
流れ上、こうなるのは予想はできた。しょうがないので「お茶でも」と声をかけると嬉しそうに純平君は「ハイ!」と元気に返事をした。
ソファでちょこんと座る純平君にコーヒーを淹れる。
「あ……ごめん、コーヒーでよかったかな?」
「はい」
気持ちキョロキョロしながら、上の空で純平君は返事をした。
「あぁ、もう少ししたら俺、店に行くけど…… 」
「あ! それなら俺も一緒に行きます。同伴出勤みたいですね 」
えヘへ、と子どもっぽく笑う純平君を見ているとやっぱりちょっと戸惑ってしまう。子どもっぽい雰囲気と大人っぽい雰囲気を合わせ持つ純平君は、今まであまり関わったことのないタイプの人間だった。他人を家に入れるのだって陸也以外したことがない。
自分もカップにコーヒーを淹れ、純平君の座るソファの対面の床へ直接座った。
「でもほんと、ありがとう。前回もだけど……まさか同じジムに通ってるとは思わなかったよ」
俺がそう言うと、顔を赤くして純平君は首を振った。
「実は違うんです。プールサイドで悠さん助けたの、俺じゃないんですよ」
「え? そうなの?」
「俺がちょうどプールから上がった時に向うに悠さん歩いてて……少し離れたところにもう一人いたんだけど、急にその人が走り出して倒れそうになった悠さんを支えたんです。で、誰か呼んでこい! って言われて、俺が従業員呼びに行っただけなんです」
「へえ、そうだったんだ。でも純平君も助けてくれたのには変わりないでしょ? ありがとう」
改めてお礼を言うと、はにかんだ笑顔を見せた。
その笑顔に自分への好意も見えて、俺は素直に嬉しく思った。
「今日はお店来てくれるんでしょ? お礼に今日の分俺が奢るよ」
そう提案すると、純平君は今度は大袈裟にブンブンと首を振る。
「いや、いいんです! そんな事……あ! そうだ」
そんなつもりで助けたわけじゃないと遠慮しつつも、何かを思いついた様子の純平君が満面の笑みで俺を見た。
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