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17 同伴出勤

「お礼に今度俺とデートして下さい!」 「え?」  純平君の突然のお願いに、意味がわからなくて俺は言葉に詰まってしまった。 「……デート?」  俺が聞き返すと、ハッとした顔で大慌てで否定し始める純平君。その慌てっぷりがちょっと可笑しかった。 「あ! 違うんです! うん、デート、じゃなくて、あ……えっと、俺とどこか気晴らしに遊びに行きませんか?」  如何にも恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして話す純平君を見ているとこっちまで照れ臭くなってしまう。でも、純平君はノンケだ。そのまま言っている通りの意味だ。これは単なる遊びの誘いで、恋愛感情を伴う「デート」の誘いとは違う。 「いいよ、デートね」  真面目に照れている純平君が面白くて、つい揶揄うように言ってしまった。 「だからデートじゃなくて……ああもう、デートでいいです。デートしましょ」  どういうわけか、助けてくれたお礼に俺は純平君とデートをする事になった。プライベートで誰かと二人で遊ぶなんてなかったから、少し新鮮で楽しみだと思った。  一頻り話した後、純平君と一緒に店に向う。純平君は客なので、店の入り口から店内に入り、俺は裏口から事務所へ入った。因みに俺の店は「同伴」のシステムがあるわけじゃない。ただのバーだ。  そのまますぐに店内に入ると、カウンターで元揮君と純平君がお喋りをしていた。思った通り今日も暇そうな店内だ。 「あれ? やっと来た。悠さん今日は遅かったですね」  元揮君が普段と変わらない笑顔で俺に言う。バタバタしてジムで倒れた事を伝えるのを忘れてしまった。倒れた事はさておき、遅れるという連絡くらい入れておけばよかったと少し申し訳なく思い「ごめんね」と軽く謝った。純平君も今来たところだし、話はしていないだろうと踏んで、倒れたことは伏せる。 「ちょっと用事が……」  俺がそう言った途端に元揮君の顔色が曇った。 「悠さん! 嘘つかないでください。聞きましたよ、ジムで倒れたんですって? それで純平さんに送ってもらって今この時間の同伴出勤なんですよね?」 「………… 」  しっかりとバレていた。怒り始めた元揮君を見て純平君は申し訳なさそうに小さく肩を竦める。  元揮君は、いつも俺の体の事を心配してくれる。なんだかお母さんみたいだ。 「何度目ですか? 大丈夫なんですか?」 「ごめんね、そう怒るなって……大丈夫だったから」  怖い顔で俺を睨む元揮君に、俺は平謝り。誤魔化すためにヘラヘラしていたら「勘弁してくださいよ」と元揮君はシュンとしてしまった。 「ほんとごめんな……はい、この話はおしまい。純平君は何飲む? デートの事は別として、今日の分は奢るから。なんでも言ってね」  純平君が、遠慮して俺の申し出を慌てて断る。横でまた、元揮君が怪訝な顔で俺を見た。 「なんすか? デートって……」 「あ、助けてくれたお礼にね、今度ニ人で遊びに行こうって約束したんだよ。だから、デート」 「俺が気晴らしに遊びに付き合ってほしいって悠さんにお願いしたんです。デートって言い方! デートじゃないですからね」  慌てて純平君が元揮君に説明した。そんなに「デート」という表現が照れくさいのか。それでも元揮君は何故だか納得のいかないような、微妙な顔をした。 「元揮君変だよ? なんでそんな顔してんの? もしかしてヤキモチかな?」  俺がふざけてそう言うと「そんなんじゃありません!」とプイッとしてホールへ行ってしまった。 「ごめんね純平君。元揮君、心配性なんだよね……俺が頼りないからさ、いつもあんな感じなんだ。気にしないでね」  純平君はニコッと笑って「大丈夫です」と頷いた。

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