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22 ケジメ

 どういうわけか、純平君が急に大人しくなってしまった。  車に乗り込んでから、なんだかずっと上の空。俺が美術館にあまり興味を示さなかったから嫌だったのだろうか? 少し不安になり、運転している純平君をチラッと盗み見た。見てみたところで俺には彼が何を考えているのかわからなかった。 「悠さん、戻ったらちょっと買い物付き合ってもらえますか? その後一緒に夕飯食いましょう。もちろん奢りますから」  だいぶ地元に戻ってきたところで純平君が唐突にそう言った。それは勿論構わないけど、何でもかんでも奢られるというのはあまり良い気はしなかった。 「別に奢りじゃなくていいよ。今日は凄く楽しかったし。美術館も入場料払ってもらっちゃったしさ、俺からのお礼な筈なのになんか悪いよ。まるっきり立場逆になってるし。ね? せめて晩飯は割り勘にしよう」  少しだけ俺の意見に渋っていたけど了承してくれた。それでも行き先は純平君に任せることにした。純平君は元々酒はそんなに飲めないらしいから、今日は飲まなくてもいいんだと言う。 「ちゃんと送りますから、悠さんは好きなだけ飲んでくださいね」 「ありがとう」  そもそも車だし飲むつもりはなかったとはいえ、俺をちゃんと送ってくれようとしてくれるのは嬉しく思った。  駐車場に車を停め、近くの雑貨店に入る。買い物って、何を買うのだろう。純平君に続き店に入りフラフラと店内を見ていると、純平君は棚からサッとマグカップをひとつ持ってレジへ並んだ。  そんな純平君の後ろから覗き込み「マグカップ? 随分と決めるの早かったね」と思わず聞くと、少し困ったような笑顔を浮かべた。 「あ……うちで使ってるカップ、彼女とお揃いのだったんですけどもう別れたし、いつまでも持ってんのなんだか嫌になってきて。だから新しいのなら何でもよかったんです」  言いにくそうにそう言った純平君の顔を見て、俺は胸がチクッとした。  なんで俺は少しがっかりしているのだろう。ノンケの純平君に彼女がいたってなんらおかしな事じゃない。 「彼女と別れたのって最近?」  スッと出てしまった自分の言葉に戸惑いを覚える。こんなことを聞いてどうするんだ。 「いや、もう一年以上も前の事ですよ。なんか気にせず使ってたんだけど、ふとね、ケジメつけなきゃなって思ったもんで」  思ったらすぐに行動したくなってしまうのが悪い癖だと言い笑う。そうだよ、何も今日の今、買いに行かなくてもよかったんじゃないか? なんて思ったりしたけど黙っていた。それに純平君のいう「ケジメ」というのも少しわかる気がするから。 「すみません付き合ってもらっちゃって。買い物は済んだからご飯行きましょ」  雑貨店から少し歩いたところにある、ちょっと小ぢんまりした居酒屋に入った。 「俺、ここよく来るんですよ。とにかく料理が美味くて……」  ご機嫌でカウンターに座る純平君の隣に俺は座った。  カウンターの目の前に、たくさんの惣菜が並んでいる。どれも家庭的で美味しそうだった。  とりあえずのビールを頼み、烏龍茶の純平君と乾杯をする。 「どうせなら、一緒に飲みたかったな」  そう俺が言うと「車じゃない時に、またニ人で飲みましょう」と、はにかみながらそう言った。またニ人で、という純平君の言葉に、「次もあるのか」と自然と頬が緩む。社交辞令だったとしても、俺にとってはなんとなく嬉しい事だった。

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