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30 涙と共に

「元揮君、ごめん……後よろしく」  カウンターの逆の隅で客と話し込んでいた元揮君に店を任せ、敦から逃れるように俺はその場を離れた。  立っていられなかった。気持ちが悪い……  ずっと奥に気持ちをしまって閉じ込めてたのに、 無理矢理こじ開けられて引っ張りだされた感じがした。  もう大丈夫だったのに。  祝福出来てた筈だったのに。  どうしても虚しさと寂しさがこみ上げてきてしょうがなかった。 (悠さんはさ、どんだけ時間を無駄にしたの?) (滑稽だな……)  敦の言葉が頭の中で何度も響いた。  わかってる。そんなの自分が一番よくわかっている。  気がついたら店から出て、俺は街中を歩いていた。少し飲んでいたせいか、勝手に涙がぽろぽろと溢れてくる。でもなんでこんなに感情的になってるのか、自分でもわからなかった。  陸也……  足を止め、植え込みの所のブロックに座り込み、地面を見つめる。落ちる涙は一向に止まることなく、地面に小さな染みを作っていった。  そう、このまま涙と一緒に嫌な感情も流れ落ちればいいんだ。  寂しさも虚しさも。  愛おしさも全部、全部……  アスファルトに染み込んで、綺麗さっぱりと無くなってくんないかな。そんな事を考えながら、俺は零れ落ちて地面に染み込んでいく涙をまるで他人事のようにぼんやりと見つめていた。 「ねぇ、大丈夫? 」  突然声をかけられ、顔を上げると知らない男がしゃがみ込んで心配そうに俺を見ていた。驚いたけど、目の前のその見知らぬ男に咄嗟に笑顔を作り「大丈夫……」とだけ伝えた。みっともないとか恥ずかしいとか、その時は何も感じず、ただいつものように仮面を被る。キョトンとしたその男は俺にハンカチを差し出し去って行った。 「………… 」  俺は何をやってんだろう。  受け取ったハンカチで、再び溢れ始めた涙を押さえる。  どのくらいその場に座っていたのか、次から次へと溢れていた涙もいつの間にか止まっていた。気持ちすっきりしているのは、僅かながら涙と一緒に嫌な感情も流れてくれたのだろう。きっとそう……  ふと自分のすぐ横に同じように座っている足が視界に入る。  誰だ? と思い視線を向けると、遠くを見つめながら俺と同じ姿勢で座り込む敦の姿があった。

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