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32 苦手

 正直、敦が来なくなってホッとしていた。  あの事があったおかげで、俺はまた陸也の事を意識してしまう。かといって別に陸也とどうこうなりたいってわけじゃない。ちょっとドキドキしてしまう自分に戸惑っていただけだ。  なんでもない……  こんなのどうって事はない。  そう自分に言い聞かせる。それでも志音と二人で幸せそうな姿を見てると「よかったな」と素直に思えるようにはなっていた。  元揮君が俺に対して世話焼きっぽくなってきたのもこのきっとこの頃から。  これが敦との最悪な出会い──  なんでまた急に俺の前に現れたんだのだろう。なんでも何もきっと偶然。  俺は敦が嫌いなんだ。敦に純平君の事をとやかく言われる筋合いはない。「やめときな」なんて、それこそ余計なお世話だ。純平君はただの客だ。否、今となっては俺の友達。  いきなり俺の前に姿を現し、心を掻き乱すような言動をとる敦。俺は敦のことが嫌いだし、苦手だから、きっとこんなにもドキドキするんだ。敦の考えてる事がわからないから、胸が騒つく。  俺はモヤモヤとした気持ちを切り替える事が出来ないまま、店へと向かった。  店に入ると、準備中の元揮君が顔を上げる。 「あれ、悠さん今日は早いですね」 「ああ……」  元揮君は俺の顔を見るなり何か言いたそうな顔をする。でもそれ以上は何も言わず店の準備を続けた。  開店してすぐ入ってきた客は敦だった。 「あ、いらっしゃい……」  横で敦の顔を見た元揮君が小さな声で「あぁ、原因はこれか 」と呟いた。 「悠さん、疲れてそうだから奥で休んでていいですよ」  元揮君は敦の顔を見るなり俺にそう耳打ちをした。あからさまに気を遣われて面白くなかったけど、今日はお言葉に甘えさえてもらい俺は事務所に向かった。  敦と何を話したらいいのかわからなかった。  もう乱されたくない……というのが本音だった。

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