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33 敦と元揮
「あれ? 今、悠さんいたよね? 何? 裏に引っ込んじゃったの?」
敦はヘラッと笑ってカウンターの端の席に座った。
……久々だな。どれくらいぶりだろう。そんな事を思いながら、元揮は敦の前に立つ。
「お久しぶりですね。悠さんはお疲れのご様子だったから奥で休んでもらいました……てか、あなたのせいなんじゃないですか? 今日の悠さん、また少し様子が変だった」
少し乱暴に敦の前に飲み物を置く元揮。
これは無意識……
少しの敵対心。そんな彼の小さな感情に敦は気付き、クスリと笑った。
「なんで俺のせい? 昨晩偶然に会ったけど、何もしてないよ……悠さん弱い人だから、丁寧に接してあげないと」
敦の言葉にイラつきを隠せず元揮は突っかかった。
「ならなんで悠さんあんな辛そうなんだよ。敦が来てから楽しそうにしてたのに……お前が店に来なくなってから悠さん不安定なんだよ。よく倒れるし……もうお前、顔出すな」
思わず強い口調になってしまった元揮はハッとして自分の口を手で押さえる。
「ちょっと……? それ客に対してどうかと思うよ」
笑いを堪えながら、揶揄うように敦は元揮の瞳を見つめた。
「すみません。失礼しました……でも、悠さんは弱い人なんかじゃない」
二人の険悪なムード、というより、元揮が敦に対して嫌悪感丸出しなだけで、敦はそんな元揮の態度はまるで気にしていない様子だった。
「悠さん最近どうなの? 昨日男と楽しそうにやってたけど……」
敦は元揮にそう聞くも、元揮はプイッと顔を背けて「知りません」と呟いた。
「なんだよ、つまんねぇなぁ」
そう言って、グラスの中の氷を指でクルクルと弄ぶ敦。元揮はというと、もう敦とは話すこともないと言わんばかりに知らんぷりをし、黙ったままナッツの乗った皿を差し出した。
敦は一人、ナッツを口に放りぼんやりと空を見つめた。
開店間もない店内、ゆったりとしたジャズが静かに流れる中、店のドアについたベルがチリンと鳴った。
「いらっしゃいませ…… 」
手に持ったグラスを拭きながら顔も上げずに元揮は声を出す。静かに二人目の客はカウンターに近付き、敦の一つ隣の席に腰掛けた。
「敦さん、来てたんだ」
そう声をかけたのは、昨晩一緒だった純平だった。
「あれ? 悠さん今日はまだ来てないのかな?」
すぐさま敦にそう聞くと、元揮が「来てますけど疲れてるみたいで裏で休んでます」と、そう答えた。
「純平君、何か疲れさせるような事、悠さんにしちゃったの?」
敦がニヤニヤしながら含みを持たせて純平に聞く。
「え? 昨日はゆっくり出来るように俺が運転でドライブしたんだけどなぁ……気を使って疲れちゃったのかな?」
至極真面目な純平の答えに、それを聞いていた元揮はクスリと笑った。
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