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34 動揺

 元揮君に言われて事務所に下がってきたものの、まるで俺が敦から逃げてるようなのも癪に触る。元揮君一人に店を任せているのも申し訳なく思い、俺は気持ちを切り替えて、すぐに店の方へ戻った。店内を見るとうまだ他の客はいない。客はカウンターにいる敦と純平君だけだった。 「いらっしゃいませ。純平君昨日はありがとうね。楽しかった」  なんで敦と純平君が仲良く飲んでるんだ、と少し不快に思ったけど、俺はいつものように笑顔を作り声をかける。 「悠さん、大丈夫ですか? 疲れちゃいました?」  恐らく元揮君から何かを聞いたのだろう。純平君が心配そうに俺の顔を覗いた。 「ううん、ごめんね。大丈夫……」  チラッと敦を見ると、何か言いたそうな顔をしていた。そんな態度に俺は動揺する気持ちをそっと隠す。 「よかった。俺が無理言って気を遣わせちゃったかなって心配でした」 「そんなことないよ、デート楽しかったし。また誘ってね」  そんな俺たちの会話を頬杖をついてジッと見る敦の視線に、俺は気付かないふりをした。 「悠さん昨日は純平君と一日デートしてたんだぁ。いいなぁ、俺ともデートしろよ」 「敦さんまで! あれはデートじゃないです、俺が悠さんにお願いして出かけるのに付き合ってもらっただけなんですって」 「だからそれがデートなんじゃねぇの? 純平君、悠さんのこと独り占めしたかったんだろ?」 「え…… 」  明らかに純平君のことを揶揄って挑発をしている敦に、やっぱり俺は黙っていることができなかった。 「敦! 純平君、困ってんだろ。なんなんだよ。嫌な言い方しやがって 」  聞いていられなくなり思わず食ってかかると、ヘラッと笑う敦にやんわりとあしらわれてしまった。 「悠さんも珍しいよね? あんまり人と二人でなんて出かけることしない人なのに。なんか妬けちゃうな」 「……はぁ? わけわかんないし」  敦がなにを考えてるのかわからず、なぜだか胸がモヤモヤと掻き回される感じが堪らなく嫌だ。この場から離れたくて、自分の飲み物を作りに俺は敦から少し離れた。 「純平君もさ、悠さんと同じジム行ったりデートに誘ったり、もしかして悠さんの事狙ってんの?」  耳に入ってきた敦の言葉に俺は思わず「ありえない!」と声を上げた。純平君になんてことを聞いてるんだ、そう思って慌てて俺は敦を見た。 「え? 敦さん、狙ってるって? 俺、男っすよ?」  俺の動揺とは真逆に、純平君はキョトンとしている。ノンケなのだから困惑して当たり前だ。そもそもそういう概念がないのだから。これ以上純平君の前でおかしなことを言うのは止めてほしい。 「ははっ、そうだよな。純平君ごめんな……あ、悠さん俺そろそろ行くね。ごちそうさま」  人の事を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、敦はさっさと店を出て行った。 閉まるドアを見つめ、ドッと疲れが湧き上がるのを感じる。 「敦さんって面白いですよね。ちょっと怖いなって思う事もあるけど……」  出ていく敦を見ながら純平君がクスッと笑った。 「それにしても、悠さんって敦さんの前だと感情的になるんですね。なんだか新鮮だな」 「え? そんな事ないでしょ? いつもと一緒だよ」  どっと疲れを感じながら、俺はそう誤魔化すので精一杯だった。

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