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43 少しずつ……

 そして気がつく──  悠さんがある客に対して見せる特別な顔。話す距離も勿論だけど、新たに気付いたあの特別な表情を見てすぐにわかった。あぁ、恋人なのかな? と。薄々気が付いてはいたけれど、悠さんも俺と同じコッチ側の人間なんだ。 「悠さん、彼氏いるんでしょ?」  悠さんの特別なあの顔を見てから数日後、俺は思い切って聞いてみた。 「彼氏ってなに……そんなのいないですよ」  いつもと変わらず、何食わぬ顔をしてシレッと答える悠さんに思わず笑ってしまった。 「いや、あの人恋人じゃないの?」  俺は引き下がらずに突っ込んでもう一度聞いてみる。さっきの悠さんの答え方が「もうこの話はするな」と言っているようで、思わず意地悪をしたくなってしまった。思った通り、悠さんの顔が僅かに強張ったのがわかった。 「悠さん、あの人と喋ってる時全然違う顔してるから……大切な人なんでしょ? 隠したってわかるよ」  大切な人……  そう言った俺の言葉に、悠さんは見た事もない辛そうな瞳を俺に向けた。 「違います。ただの昔馴染みで仲がいいだけですよ」  悠さんの声が、なんだか違う人の声みたいだ。悠さんの様子の変化に、俺は触れてはいけないところを突いてしまったんだと気付いてしまった。 「ふぅん、そうなの?」  昔馴染み……  そうだ、確か高校時代からの知り合いみたいなことを元揮君から聞いたような気がする。  それからすぐ、悠さんはいつもの調子に戻りニ人で他愛のない話をする。さっき俺に見せたあの辛そうで悲しみに染まってしまった瞳が頭から離れなかった。  あんな事言うんじゃなかった……  俺は悠さんの必死に隠している感情に気付いてしまった。でも、言わなきゃ良かったという後悔よりも、この人はどれだけの思いを、気持ちをひた隠しにしてきたんだろうかと少し哀れに思う自分もいたのは事実。  やっぱり俺と同じだ。  なんとかしてあげたいっていう気持ちの方が大きくなった。 「そうそう、悠さん俺より歳上でしょ? 敬語で話すのもういい加減やめてもらえる? なんか距離感じて嫌だな。ね?」  少しでも打ち解けられるようにと思って俺がそうお願いすると、不思議そうな顔をして悠さんはわかったと頷いてくれた。  少しずつでもいい……  この人は自分の感情を素直にぶつける事が出来るようにならないといけない。  いろんな事を隠して押し込めて、 きっと沢山無理をしているから──

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