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44 僅かな変化

 それからも俺はちょくちょく悠さんの店に通った。  悠さんも敬語が抜けて、更に気さくに話してくれるようになって嬉しかった。  俺が結構突っ込んで話をしたりふざけたりするから、きっと悠さんは俺の事を鬱陶しいって思っているかもしれない。でもいいんだ。だって前より全然悠さんの素の部分が出てきてるから。  とはいえ、大抵は俺に対する「怒り」の感情だったりするんだけど、それでもスカした悠さんより全然良かった。  悠さんの店は、もともと志音が行きつけにしていた店。  きっと志音の息抜きの場所……  だから極力志音と会わないように気を遣って俺はこの店に来ていた。 「本当最近よく来るよね」  今日もカウンターの一番奥の席に座ると悠さんが俺の前に来てくれる。 「いつものちょうだい」  そう、今日もいつもの様に楽しくお喋りをして気持ちよく帰るはずだったんだ。  しばらくすると静かな店内にドアのベルの音が響く。 「あ……」  悠さんが小さく呟いたのに気がつき俺も目線の先を振り返ると、そこには志音が立っていた。 「あ、敦も来てたんだ……」  明らかに何か戸惑ったような表情を見せた志音に、悠さんは何も言わずにすっと飲み物を出す。 「待ち合わせなんだろ?」  悠さんにそう聞かれた志音はなんとも言えない顔をして小さく頷いた。  志音は「彼」ができたと言いつつ全然紹介してくれないし、いまだに俺は相手がどんな奴だか知らないでいた。 「なに? 彼氏? 悠さん聞いてよ! 志音ってば恥ずかしがって俺に彼氏紹介してくれないんだぜ。もう一年くらい経つっつうのに。でもやっとお目にかかれるんだな。楽しみだ」  俺は横の志音を肘で小突いて、からかった。 「ちょっとトイレ…… 」  志音がトイレに立つ。  俺は離れていく志音の背中を見つめながら、悠さんに小さな声で話しかけた。 「俺さ、実は志音の事好きだったんだよね……見事に振られちゃったけどさ。でもあいつが今幸せそうでなによりだよ。彼氏と付き合い始めてからずっと見てきたけど、いい顔すんだよな〜志音の奴。ちょっと悔しいけどね」  俺の事を知って欲しかった──  俺は自然と口に出して悠さんにぺらぺらと喋っていた。  志音が戻る前に一人の客が入ってくる。  俺から離れた真ん中あたりに腰掛けると、志音はまだかと悠さんに聞いた。こいつが志音の彼氏か? と思いチラッと盗み見て、思い出した。声をかけようと悠さんを見て、俺は言葉を失った。  なんでそんな表情をするんだ?  そこにいたのは以前俺が悠さんの恋人だと勘違いしたあの男、そして俺が志音とキスをした時に悠さんと店から出てきた奴だった。 同一人物だったんだ。 何でもないと悠さんは言うけど、悠さんがこいつに焦がれてるのは悠さんを見てきた俺には一目瞭然だった。  きっと周りの人間にもわからないくらいの僅かな変化。  悠さんは自分では気がついてない……  自分がどんだけ辛そうな目をしてるのか。

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