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55 前進

 俺は今、自分の部屋のベッドに腰掛け携帯の画面を眺めている──  いざ連絡を……と思って携帯を手にしたものの、今までこんな風に改めて約束を取り付けて会うなんてことはしてこなかったから、なんと言って切り出していいものか躊躇してしまう。  まあ、考えてもしょうがない。普通に「飯でも──」と言えばいいだけのことだ。  もう学校は終わったかな?……あ、志音が一緒だと悪いかな。あれこれ考えを巡らせては携帯を脇に置く。まるで恋する男子中学生のよう。そもそも今更告白とか、そんな事を言いたいわけじゃない。そう、こんなに緊張する理由もないのだ。ずっと気になっていた事を聞くだけだろうに。  全く……  俺は意を決して陸也の番号をコールした。 『どうした? 珍しいじゃん電話なんて。何かあった?』  第一声。ごもっともな陸也の反応に思わずクスリと笑ってしまった。声を聞いたら緊張が一気にどこかへ行ってしまった。 「ん、悪いな。今大丈夫? 志音も一緒?」 『うんん、俺ひとりだよ』  志音と一緒なら電話をすぐに切ろうと思った。でも一人だと聞いてほっとすると同時にまた少し緊張が走る。こんなの別に言いにくいことじゃない。大丈夫。普通に誘えばいいだけのこと。 「ちょっと二人で話したい事があるんだ……都合いい時、飯でもどう?」 『おぅ、いいけど……じゃ今からどうだ? 悠はこれから店?』  店は少し遅れると元揮君に言っておけば問題はない。 「うん、大丈夫……志音にはちゃんと言っておけよ。俺と会うって」  志音はいつも大丈夫な風を装って心配をかけまいとするから……あらぬ疑いを持たれて、嫌な思いをさせたくない。  もう俺に対して怪しんだり嫉妬したりという感情は無くなってるはずだけど、それでもやっぱりこっそりと会うなんてできないから。 『え? 別にわざわざ言う必要ないだろ』  電話口から不思議そうな陸也の声。  ……ほら、こういう鈍感な奴だから。志音は見た目こそ大人っぽいけど中身はまだまだ幼いんだ。そんなこと陸也が一番に分かってると思うんだけどな。 「ダメだよ。また志音が拗ねても知らねえぞ」 『わかった。じゃあ、今から悠んち行くわ。すぐ出るから』 「は? 俺の部屋に来るの?」 『いや、飯って言ったら悠の飯じゃねえの? 久々に食いたいな』  まぁいいけど、適当に何か作るか。俺は冷蔵庫の中に何があったか考える。 「わかった……待ってる」  電話を切り、俺はぼんやりと冷蔵庫の中を覗いた。  ずっと気になっていた事。今更こんなことを聞いたところで何もないけど、それでも俺が前に進むきっかけにきっとなる。  俺が納得できればそれでいいんだ。  そうだよな?

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