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56 話

 冷蔵庫の余り物でスープとパスタを作る。人のために食事を作るのも久しぶりだった。陸也はどこにいたんだか、思ったよりすぐに玄関の呼び鈴が響いた。  ドアを開けると、ワイン片手にご機嫌な表情の陸也が立っていた。 「近くにでもいたの? 随分早かったね」 「ん、そうそう、ちょっと近くにいたんだ。悠の好きなワイン買ってきたぞ……あ、いい匂い 」  陸也がここに来るのも久しぶりだ。  そうだよな……志音と付き合うようになってからは来る必要もないのだから。  部屋に入った陸也はワインをテーブルに置くと、キッチンを覗き込み嬉しそうに笑った。 「俺これ好きなんだよね。シンプルでいい」 「急だったから余りもんだぞ……」  そういえば、陸也はこれが好きだった。  キャベツとベーコンで作ったペペロンチーノ。喋りながら、ちょうど茹で上がったパスタを絡める。ひと振りふた振り、フライパンを煽ってからサッと皿に盛り付け、リビングのテーブルへと運んだ。 「あれ? 悠は食べねえの?」  一人分の食事を見て陸也が不思議そうな顔をする。そりゃ今日会えるとわかってれば俺だって食事なんて済ませていない。 「急だったから……俺はもう済ませた。だから腹は減ってないんだよ。いいから気にせず食べろ」 「そう? じゃあ遠慮なく。いただきます」  パチンと手を合わせ、食べ始める陸也を見る。 「やっぱり美味いな。志音もな、かなり料理の腕上げたんだよ。俺は幸せもんだな」  そう言って、食べながら陸也は嬉しそうな顔をした。 「……志音とは最近どう?」  陸也が持ってきたワインを飲みながら、話をする。 「ん? 大丈夫だよ。あんな事あってちょっと不安定なとこもあるけど。俺もついてるしもう乗り越えてっから大丈夫」  顔を上げずに陸也が答える。  志音はモデルの傍ら少しずつメディアにも出るようになったせいで色々と不便な所があった。それで少し前にちょっとした事件も起きた。でも陸也が大丈夫だと言って寄り添っている。 「志音にもまた店来るように言っておいてな」 「ん、了解……はぁ美味かった〜、ご馳走様」 「はい、お粗末様でした」  俺は食べ終えた皿を洗おうと立ち上がると、陸也に引き止められた。 「悠、今日はどうした? 何か話あるんだろ?」  いつになく真剣な眼差し。そうだよ、話があるからと呼び出したのは俺の方だ。先程から他愛のない世間話だけしかしていない。していないというより、俺はなかなか切り出せないでいた。 「ああ、うん。とりあえずこれ洗っちゃうからさ……ソファでテレビでも見て待っててよ」  俺はそう言うのが精一杯だった。

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