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58 抱擁

 二人で一緒に笑い合う。  ふと視線が重なり、陸也は俺の事をじっと見つめた。 「悠…… 」  陸也はソファから立ち上がり、床に座っている俺の横に一緒に座る。 「……なに?」 「悠、こっち向けって」  陸也に肩を掴まれ、体の向きを変えられた。真っ直ぐに俺の事を見つめてくる陸也の視線が辛い。 「ごめんな……もしかして悠、俺の事でずっと苦しい思いしてたのか? 俺はあの時の悠との関係を後悔した事はないから。絶対ない。今まで誤解させちまってたら本当にごめん」 「………… 」  せっかく笑って終わらそうとしていたのに。そんな事言わないでほしかった。目の奥がジワッと熱くなるのがわかる。 「悠のおかげで俺は志音と前に進む事が出来たんだ。ほんと、今更なんだけどさ……ありがとうな」 「……ん」 「高校の時、俺の事を認めてくれて、ありがとう……」  陸也── 「やっと言えた。俺、ずっと悠にお礼が言いたかったんだ。高校の時、俺の悩み聞いてくれてさ、その時からずっと俺の事見守ってくれて……でも照れくさかったり日常に流されてなかなか言えなかったから。今日二人で改めて話せてよかったよ」  お礼なんていらない。俺は陸也の事が好きだったからそうしてきただけだ。俺がずっと陸也に執着してしがみついていたかっただけなんだ。そう、お礼を言われるようなことは何もしていない。全部自分がしたかったことなのだから…… 「……悠?」  突然陸也がフワッと俺を抱きしめた。それは下心やいやらしさの全く感じられない、とても清い抱擁だった。 「ごめん……泣かせた……」  陸也に抱きしめられ初めて気が付く。  あぁ、結局俺、泣いてやんの…… 「いや、辛くて泣いてるんじゃないから……俺の方こそ陸也の気持ち話してくれてありがとう。嬉しかった」  陸也の胸の中で精一杯そう言った。  ポロポロと落ちていく涙を見つめる。  ずっと燻っていたモヤモヤがポロポロと落ちていくような気がした。 「陸也。ありがとう。これからも親友でいてくれよな」  顔をしっかりと上げ、俺は陸也に微笑んだ。

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