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59 店へ
陸也が帰った後、俺は少し考えた──
先程の涙は決して悲しい涙なんかじゃなく、長年一人で蟠っていた思いがすっきりして、陸也に話せて良かったと思う安堵感に似たような感情で出た涙だ。
ぽっかりと空いていた穴が、少しずつ埋まっていく感覚……
やっと踏ん切りがついて、俺は思った以上にすっきりとしていた。
「さて……と、店に行かなきゃな」
俺はとりあえず元揮君に電話をし、今から店に向かうという事と、遅れたことを詫びた。
店に着くと、相変わらず暇そうな店内。俺が顔を出すなり元揮君に心配された。
「大丈夫ですか? 体調悪いなら無理してこなくてもいいですよ?」
「いや、体調悪かったわけじゃないから。ごめんな。俺は元気だから大丈夫」
俺がそう言うと、ホッとした顔を見せた。
「なんかいつも心配かけちゃってるね。ありがとうね」
感謝の言葉を伝えると、元揮君は嬉しそうにはにかんだ。
「いえ、俺が勝手に心配してるだけですから……あ、そうだ! さっきまで純平さん来てましたよ。本当ついさっき」
「へぇ、一人で?」
「いえ、彼女さんと一緒でした……里佳さんって言いましたっけ? あの人、男勝りでハキハキしてていいですよね。俺も話しやすいです」
元揮君の言う通り、里佳さんは誰にでも同じ態度でとても気立ての良いお嬢さんだ。
「ここ座ってた?」
さっき喋りながら目の前のカウンターを拭いていたのを思い出し聞いてみると、元揮君はそうだと言い俺の顔を見た。俺がいないと純平君は里佳さんとカウンターに座るんだな。
「悠さん?」
「あ……なんでもない。純平君何か言ってた?」
変なことで小さな嫉妬心の様なものが顔を出す。こんな些細な事で一々心を曇らせていたんじゃしょうがないな……と自分が情けなくなってくる。純平君は「近々またデートしましょうね」と言っていたらしく、里佳さんに突っ込まれてオドオドしていたと言い元揮君は笑った。
「ふうん、デートね。了解」
里佳さんと一緒にいながら俺とデートしようと発言。純平君はどんなつもりで言ったのかわからない。俺はまた少し複雑な気分になった。
この日もとくに忙しくなることもなくいつもより早めに閉店にした。
「悠さん、お疲れっした〜」
片付けを終えた元揮君が元気に声をかけ帰って行った。
俺もレジを締め、帰り支度をする。なんとなくすぐに帰るのが嫌で、一人で飲みに行こうと店を出た。
ぼんやり繁華街を歩く。
どこに行こうか……
一人になりたいけど、やっぱりひとりは寂しくなる。結局は人恋しいんだ。
俺は久々にある店に向かっていた。
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