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61 翌朝
──あれ?
見覚えのない場所で目を覚まし、慌てて俺は周りを確認する。
小綺麗な室内……確か俺は……
あ?!
「麗さんっ! 麗さん、すみませんっ!」
昨晩の状況を思い出し、俺は慌ててベッドから転がり降りた。いきなり飛び起きたものだから軽く目眩に襲われる。床にへたり込んで麗さんの姿を探すと、奥から可愛らしいエプロン姿でノーメイクの麗さんが顔を出した。
「………… 」
ノーメイクでも全く見劣りしない美しさに俺は思わず言葉を失う。情けなく「おはようございます……」となんとか発し、挨拶をして頭を下げた。
「ふふ、起きた? 二日酔いは大丈夫かな? 悠ちゃん朝は食べないでしょ? でもシジミのお味噌汁は作ったから、よかったら飲んていって。酒呑んだ後はシジミ汁が美味いのよ」
「あ……はい」
久々にやってしまった。残念ながら、これはちゃんと覚えている。
俺は麗さんの店で飲んでいて、機嫌よく酒を勧めてくる麗さんに合わせ調子に乗って少しばかり飲み過ぎてしまった。記憶をなくすほどの馬鹿な飲み方はしないものの、昨晩は少し浮かれて飲みたい気分だったからついつい羽目を外してしまった。
多分麗さんもそんな俺の事をわかって楽しく一緒に飲んでくれたんだ。
気が付いたら客は俺だけになっていて、だいぶ酒も入り気分がよくなっていた俺は、麗さんに自分の話をぶちまけた。
陸也と話せて、燻っていたモヤモヤも晴れたのに……
ずっと辛かったこと。
新しい恋をしてみたかったこと……
一度でもいいから、誰かを愛しそして愛されてみたいと思っていたこと……
いつの間にか自分の弱いところを麗さんにさらけ出していた。
麗さんは黙って俺の話を聞いてくれて、まるで子どもにするみたいに俺の頭を優しく撫でてくれた。
「悠ちゃんは幸せになれるから。もっと自分に自信を持ちなさい」
ずっと静かに俺のことを慰め励ましてくれていた麗さん。
後半はほぼ俺の愚痴に付き合わせる感じで麗さんと飲み続け、挙げ句の果てに眠くなってしまい麗さんにおんぶされてここまで来たってわけだ。ガタイの良い美女におんぶされる、これまたそこそこ図体のデカい俺……
いっそのこと記憶が飛んでいてくれた方がよかった。
他人にこんな醜態を晒すなんて、恥ずかしすぎる。
「悠ちゃんたら、ここに着くなり服脱ぎだしたから、私のTシャツ貸したけど……わかってると思うけど何もなかったからね。心配しないでね」
言われて初めて気がつく。大きめのTシャツに下着のみの俺。
「あぁ! ほんと、すみませんっ! 俺……俺…… 」
「悠ちゃんはいい男だけど、残念ながら悠ちゃんにとって私は恋愛対象外だものね。つまみ食いもしてないから安心してね」
そう言って麗さんは豪快に笑うと、俺のために作ったというシジミの味噌汁を持ってきてくれた。
穴があったら入りたい……
本気でそんな事を考えながら、俺はシジミの味噌汁を飲み干した。
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