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62 また誰かを好きに……

「悠ちゃんはさ、真面目なんだね。真面目で優しい……今まで偉かったわね」  麗さんはそう言いながら俺の顔をジッと見つめる。 「でも、あなた人の事ばかり気遣って、自分のこと疎かにしてきちゃったの……気持ちはね、どんどん出しちゃった方が楽なのよ。辛かったでしょ? その気持ち、私にはよくわかるけどね、悠ちゃんの悪いところは何でもわかった風な気になっちゃうところ。そんな思い込みは捨てなさいね」  物凄い恐縮しながら味噌汁を頂き、俺は麗さんの家を出た。  そんなに二日酔いの症状もなく、麗さんに醜態を晒してしまった筈なのに、段々と清々しい気分になっていく。  酔っ払って思いの丈をぶちまけてしまったのが麗さんで本当によかった…… 『悠ちゃんは幸せになれるから』  そう言ってくれた麗さんの声が、いつまでも頭から離れない。  俺は幸せになれるのかな?  誰かが俺を愛してくれるのかな……  俺は誰かをまた好きになれるのかな──  そして今日も俺は店に出る。  元揮君も太亮君もいつもと変わらず……でも、太亮君は俺が麗さんのマンションから出てきたのを目撃したらしく、しばらくは機嫌が悪くあまり口をきいてくれなかった。  わかりやすい。  いっそ、麗さんに好きだと伝えてしまえばいいのに。 「太亮君も今度麗さんのお店行ってみる? 麗さん喜ぶよ」 「いいです! 困ります……」  ああ、そうか。  麗さんは「男」だから好きになったら困るんだっけ。  変なの……  好きなら好きでいいじゃないか。  太亮君はもう既に好きになってしまってるからこんなに俺に対してイラついてるんだろ? 「もう、面倒くさいね太亮君は……」  思わず口に出して言ってしまい、また睨まれてしまった。 「なんだよもぉ! 酷いっすよ」  ブツブツ言いながら、太亮君は奥に引っ込んでしまった。でも面倒くさいと言ったら俺も同じだ。クスッとおかしく笑い、俺は開店準備を始めた。  毎日同じ繰り返し──  敦は忙しいのか殆ど店に顔を出さなくなった。純平君も来てくれるものの友達と一緒だったり里佳さんと一緒だったり。  でも里佳さんと一緒の時は相変わらず気まずそうな顔をする純平君。  俺はそんな君の態度にイラっとする。  俺の事を好きだと言ってくれた純平君。でもそんな出来事は俺の妄想だったのかもしれないと思えてきて、少し切なくなった。

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