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66 ごめんなさい
「キスくらいなら全然いける……なんて思ってやってみた? 俺はね、そんな純平君も優しくて好きだよ。でもそれに甘えて勢いで付き合っちゃえって思えるほど若くないんだ。俺は安心して誰かを愛したい……愛されたいんだ」
寂しそうな笑顔で俺にそう話す悠さん。
好きだよ……
愛してる。
そう言って抱きしめたいのに、今の俺にはそれが出来ない。
ちょっと会わなかっただけで、里佳によりを戻そうと言われて揺らいでる自分がいるから。
でもやっぱり悠さんと一緒にいると、この人の事が愛おしいと思う……どうしようもなく側にいたいと思ってしまう。
でも悠さんの言う通り、悠さんに性的感情は持った事がなかった。
「純平君、俺はね……重いよ。俺がこれ以上君の事を好きになっちゃう前に、ちゃんとフってくれるかな。自分の気持ちちゃんと伝えて、それでフラれるつもりで今日は君を呼んだんだ」
「フラれるって! なんで? 俺は悠さん好きだよ?」
悠さんは小さく首を振る。
「うんん、少しでも里佳さんの事を考えてるのなら俺なんかはやめておいたほうがいい……どうやったって俺は女の子にはなれないんだから……純平君の好きはね、きっと同情が混じってる」
「………… 」
「それにさ、純平君は俺を抱けないよ。俺がどう頑張ったって友達以上にはなれないから」
真っ赤な顔をして、瞳を潤ませた悠さん。
俺は何を言っても悠さんを傷つけてしまうのか……
「好き」なんて言ってごめんなさい。
でも本当に好きだって思ったんだ。
決して悠さんを悲しませたかったわけじゃない……
いろんな感情が渦巻いて、気がついたら俺は隣に座る悠さんを抱きしめていた。
「……悠さん、ごめんなさい」
俺の背中に回る悠さんの手にもギュッと力がこもる。
「ごめんなさい。でも好きなんだ。嘘じゃない……」
謝ることしかできない俺に抱きしめられた悠さんは、ポンポンと優しく背中を叩いてくれた。
「好きって言ってくれてありがとう……俺に人を好きになる勇気をくれてありがとう。純平君は悪くない。もう謝らないで……でもちょっとでいいから……まだ抱きしめていて」
悠さんの柔らかな髪が俺の頬に触れる。
人の温もり。
愛しい人の温もりがこんなにも心地いいのに、俺には全てを受け止める事が出来ないでいる。
……なんてザマだよ。
俺にもたれかかり、背中に回ってる悠さんの手がストンと落ちる。いつの間にか眠ってしまったのか、静かな寝息が聞こえてきた。
すごい飲んでたもんな。
しばらくの間、俺は寝ている悠さんを抱きしめる。
「俺のことをフってくれ」なんて言ってたけどさ、実際フラれたのは俺の方だ。
俺なんかじゃきっと悠さんを安心させてあげる事はできないから……
そっと悠さんを起こさないように、俺は体を離す。
ソファに一人横たわり寝ている悠さんの姿を眺めながら考えた。
悠さんは否定するけど、好きだった気持ちは絶対に嘘じゃない。
……嘘じゃないんだ。
眠っている悠さんの髪に触れる。
頬に手を添える。
……唇に指を這わす。
悠さんが望むなら、俺はきっとなんでもできると思うよ。
それでもやっぱり、悠さんの不安は消える事はないんだ……
「ごめんなさい……」
俺は小さく呟いて、もう一度悠さんの唇にそっと唇を重ねた。
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