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75 緊張する?

 グラスにワインを注ぎながら俺の顔を見る敦。 「俺とこうしてるの……緊張する? 俺の事、まだ苦手?」  最初は敦のこと怖かった。  苦手だった……  なんでも見透かされてるようで、おまけに見て見ぬ振りをしていた嫌なところを突いてくる。でも敦が俺のそんなところを見抜いてくれて、突いてくれたから今の俺がいるんだ。  今となっては全く苦手意識はない。  逆に、俺を見る敦の気持ちに気付いているから…… 「苦手ではないよ……でも緊張はする」  俺は敦に正直に話した。 「悠さん、緊張してくれるの? それって意識してくれてるってことだよね?……なんか嬉しいな」  敦はそう言いながらグラスを傾け、俺のグラスに軽く合わせた。 「でもね、心配しないでいいよ。俺だって悠さんの気持ち大事にしたいし。襲ったりしないから」 「なんだよそれ……」  敦はクスッと笑って、俺の肩に頭を乗せる。以前の俺ならきっと警戒してこんな近くに座らないだろうな、と肩にかかる心地良い重みに身を委ねた。 「どう? アボカドのディップうまいでしょ 」  クラッカーにディップを付けて俺の口元に持ってくるから、それを手で受け取りひと口で食べる。 「うん、上手……美味しいよ」  本当に美味しかったからそう伝えると、敦は嬉しそうに笑った。それから敦が映画を観たいと言うのでDVDを入れ替え、二人でまったりと映画を観る。その間も敦は俺に軽く寄りかかり、リラックスした様子でワインを呑んでいた。  その密着感に、俺だけ段々と意識してしまって落ち着かない。変に酒が進んでしまって、映画の内容は全然頭に入ってこなかった。 「あれ? 何かまだ作ってる途中?」  ふと室内のいい匂いに気がつき、敦の方を見る。「そうそう」と言いながら敦はソファから立ち上がった。 「もう完成だね。俺の特製ボルシチ。コトコト煮込んでたんだ」  ボルシチなんて作れるんだ。敦の意外な一面に俺は感心しながら「凄いね」と声をかけた。 「敦がここまでの料理するなんて意外だな」 「俺だって独り身が長いから、料理だって上達するよ」  笑いながらパンを切る敦。独り身が長いなんて、調子のいいことを言っている。 「モテるくせに何言ってんの?」  少しだけ揶揄うように言ってやった。 「うん、モテるよ。でも悠さんだってモテるでしょ?」  敦はパンを切りながら顔も上げずに話を続けた。そこは否定しないんだな。敦らしい、と言おうとしたけど、その後敦の言った言葉に俺は何も言えなくなってしまった。 「いくら沢山の奴にモテたってさ、自分が恋できなきゃ意味がないんだ……」  皿にパンを並べながらそう言った敦は、ちょっとだけ寂しそうに見えた。

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