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76 好きだから

 敦が作ってくれた料理はお世辞抜きで美味しかった。そもそも人に料理を作ってもらうなんて事がないからとても新鮮だった。しかも俺の部屋で……なんだか恋人同士みたいだと思ってしまった。 「なんで今日は俺の家に来たの? 突然すぎるし料理まで。ちょっと戸惑うんだけど……」  隣に座って黙々と料理を口に運ぶ敦に俺は聞く。 「なんでもなにも、言ったよね? 俺は悠さんの事が好きだから。だからオフになったからここに来たんだ。俺だってデートしたかったから……」  パンを口に放りながら、こちらを見ずにそう言い放つ敦に胸がきゅっと熱くなった。はっきり言われるとどうしたらいいのかわからない。 「ふふっ、照れる?……それとも焦る?」  笑いながら敦はこちらをチラッと見て、俺の唇にそっと触れた。 「パン屑、付いてた」  指先でつまんだ小さなパンの屑を目の前に見せ、それを自分の口に放る。そんな仕草が手慣れた感じで、わかっているのにドキドキしてしまうのがちょっと悔しいと思ってしまう。  俺は何も言い返せずに、黙って料理を口に運ぶ。敦の態度に動揺してるのは明らかだったけどそれを俺は必死に隠した。敦はそんな俺を見てももう何も言わず、静かに二人で料理を楽しんだ。  敦は後片付けまで全てやってくれた。 「なんか悪いな。何から何まで」 「いや、俺が勝手に押しかけて好きにやってんだ。そんな事気にしないでよね。それに俺、嬉しいし」  可愛い顔をして敦が笑った。今まで見たことのない違った表情。こんな可愛らしい顔もするのかと意外だった。 「あ〜、俺車で来ちゃったんだよな。悠さん今日は泊めてよ。ソファ貸してくれればいいからさ」  前言撤回。悪戯っぽく笑う敦を俺は睨んだ。 「初めからそのつもりだったのかよ……」 「ううん、歩いて帰るつもりだったけどやっぱり悠さんともっと一緒にいたいって思っちゃったから。何もしないよ? 心配しないで」  敦の言う「心配」はしてない。  強引になんとかしようとする人間じゃないことくらいもうわかる。  自分が感じている複雑な心境に、俺自身が戸惑ってしまってるだけなんだ──

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