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77 ベッド
泊まっていくと言うのでタオルとスウェットを貸してやると、敦はさっさとバスルームへと消えていく。
貸したスウェットは、以前陸也が使っていたものだった。何となくそのままで、自分で着ることもなく捨てることもなく、クローゼットの片隅に置きっぱなしになっていた。
敦の事は嫌いじゃないし、俺が今、一番素でいられるのは敦の前だけだと思う。一番見られたくない部分ももう見られているし暴かれているから、今更取り繕うことも必要ない。
それでもまだ俺は、敦の気持ちに歩み寄る事は躊躇ってしまう。
『自分が恋できなきゃ意味がない──』
先程敦が言っていた言葉が頭を過る。
もやもやとしたものがまだ小さなしこりみたいに胸に残っていた。それでも一人は寂しくて、ぬくもりが欲しくなるのは凄く卑しく思えてしまう。
きっと敦は俺の事を愛してくれるだろう……
でも俺はまた不安になるんだ。
凄い愛されたいくせに。
純平君の時といい、俺はいったいどうしたいんだろうな。
敦がバスルームから出てくる前に部屋を片付ける。寝るのはソファでいいなんて言ったって、俺でさえあのソファは寝るには小さい。敦がバスルームから出てくると、遠慮はいらないからベッドで寝るように伝えて自分もシャワーを浴びに行った。
シャワーから出ると、ソファに座って敦はテレビを眺めてる。
「悠さん、俺にベッドで寝ていいって……悠さんはどこで寝るの? まさかソファじゃないよね?」
クスクス笑って俺を見る。
「あ……俺はソファで寝ようと」
「まったく、いいよ気を使わなくたって」
「いや、ベッド使っていいから 。食事のお礼。ちゃんと休めよ」
今日敦が買い物をしてくれたおかげで、俺は昼過ぎまで寝ていられる。一日くらいソファで寝たってどうって事はない。
「明日はね、実は大事なオーディションがあるんだ。ずっとやってみたかった仕事でさ」
唐突に敦は白状するようにそう呟いた。
「え? なんて?」
聞き間違いじゃなければ敦は連休だと言っていたはず。大事なオーディションとか訳がわからないし、俺には理解ができなかった。
「連休だって言ってなかった? そんな大事な時にこんなとこで遊んでていいのかよ。何やってんの?」
ちょっと呆れて俺が言うと、ソファに座る敦が膝を抱えて小さくなりながら顔を赤くした。
「いや……大事なオーディションだからさ、だから悠さんの笑顔拝んでから行きたかったんだよね。頑張れって言って欲しかったから……」
まったく……
「恥ずかしげもなく、よくそんなこと言えたね。あ、でも顔真っ赤だな。ふふ…… 」
普段堂々として生意気ですらある敦が、恥ずかしそうにもじもじやってんのはどうにも可愛くて笑ってしまう。
「いいよ、なら尚更ベッドに行きな。明日は早いのか?」
聞いたら随分と早くにここを出なくてはいけないみたいだったので、俺の方が焦ってしまった。
「大事なオーディションなのに寝不足とかダメだろ? 落ちたら俺が責任感じるじゃん!」
半分冗談で、笑いながら無理やり寝室へ敦を連れて行く。ベッドに座らせ、遠慮するなともう一度そう言うと、不意に手首を掴まれた。
「悠さん。あ、ありがとう……いや……でも、ダメだ。俺……悠さんのベッドでなんか寝たら逆に眠れねぇ」
俺の手首をギュッ握りぶんぶんと首を降りながら、敦はバタバタとまたリビングへと戻っていった。
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