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80 二人の鼓動/膨らむ敦の思い

 俺の腕の中に悠さんがいる──  あたたかくて、ふわりと擽る悠さんの匂い。  柔らかい髪の毛が俺の頬に触れている。  ……信じられない。  抱きしめる俺の腕、震えてないかな。  こんな状況で眠れるはずがない。  そんな緊張を察してくれたのかわからないけど、悠さんが優しく手を重ねてくれた。悠さんの背後から抱きしめているせいで彼の表情はわからない。でも腕に伝わる悠さんの鼓動は俺のそれと然程変わらなかった……  どうしても会いたくて想いが膨らんで、来てしまった悠さんのマンション。ちょっとテンパりながらも、悠さんに食事もご馳走できたし楽しく過ごせた。  本当に帰るつもりだったけど、お酒も入り調子に乗った俺は帰りたくなくなってしまった。 「俺とこうしてるの……緊張する? 俺の事、まだ苦手?」  正直に聞いてみる。  悠さんが長年自分の心を隠すために必死に身に纏っていた鎧を、見ていて辛くてどうにかしてやりたくて、俺は強引に引っぺがしてしまった。  悠さんにとって俺はきっと怖い存在なのかもしれない。  多少は好意を持ってくれてるとしても、まだ少しぎこちない悠さんの態度に自信が持てないでいた。 「苦手ではないよ……でも緊張はする」  笑顔の悠さんがそう答えてくれた。その答えと、悠さんの俺を見つめる表情を見て、俺は嬉しく思った。  俺の事を意識してくれてる。好意を持ってくれてる。そう思って嬉しくて、隣に座る悠さんの肩に寄りかかるようにして頭を乗せた。  帰りたくない。  ずっと一緒にいたい。  思いが膨らむ。  もっと俺の事を見て欲しい……  もっと好きになって欲しい。  どんどん欲張りになってしまった。  悠さんの事が好きだと自分で気がついた時点で、この気持ちが大きくなっていくのは早かった。それこそあっという間。  酷くしてしまった分、大事にしてあげたい。  腫れ物を触る……そういう事じゃないんだ。ずっと自分を隠して生きてきたこの人には、これでもかってくらい優しく甘やかしてあげたいと思ってしまう。  悠さんと一緒のベッドで寝ることになり、舞い上がった俺は背中を向ける悠さんを背後から抱きしめてしまった。  悠さんが何も言わないから……  調子に乗ってしまったと気付いてももう遅い。 「……ごめん悠さん。嫌だったら離れるから」  恐る恐る目の前の悠さんに囁くと、ピクッと肩を震わせた。 「ううん……大丈夫」  小さな声で、でもはっきりとそう言った悠さんは、少しだけ、ほんの少しだけ体を縮こまらせ吐息を漏らす。  ……なんだよ。  そんな反応されたら俺、止められないよ。  大事にしたいなんて言っておきながら、俺は自分の欲を抑える事ができなかった。

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