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83 翌日
翌朝、俺は一人ベッドで目覚めた。敦は随分早くに出て行ったのか既に姿はなく、ベッドの上は体温のぬくもりすらもう残っていなかった。
時間を見るともう昼前。リビングのテーブルに一枚、置き手紙があった。
『ゆっくり寝られた? 今夜仕事終わったら店に寄るから』
思いの外きれいな字でそう書かれてある。
敦はちゃんとオーディションに行けたのだろうか。俺があんなになってしまって動揺などしなかっただろうか。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
昨晩、俺は不意に陸也の事を思いだして泣いてしまった──
あんなに涙を流して泣いたのはどれくらいぶりかと考えたら、あの時……敦に指摘されて自分の気持ちと向き合わされたあの晩以来だと気がついた。
自分の知らないところでまだこんなにも引きずっていたのかと思うとショックだった。もう何ともないと思っていたのに、こんなふうに動揺してしまった事以上に敦を傷つけてしまったかもしれない、という事の方が今の俺にとっては辛かった。
どんな顔をして敦と会えばいいんだ。
何と言ったらいいんだ。
「クソッ……何やってんだよ俺は」
コーヒーを淹れながら、俺は一人呻いた。
夕方、いつもより早めに店に向かう。
一人で部屋にいたって碌な事を考えないから、気を紛らわすために仕事に向かった。
いつもは俺が来る前に元揮君が準備を進めていてくれるのだけれど、今日はさすがに早いのか、まだ来ていない。一人ぼんやりと開店準備を進め、時間が余ったので裏の喫煙所で一服した。
敦が来たら昨晩のことをちゃんと謝ろう。
抱こうと思ってたのに、他の男のことを思って泣かれたなんて、どう考えても不愉快でしかない。
自分のことで頭がいっぱいで、全然余裕がなかった……
嫌われてもおかしくない。そう思ったらなんだか悲しくなってしまった。
半分ほど吸ったところで灰皿へタバコを押し付け店に戻った。
「あ、悠さんもういらしてたんですね。今日は早くないですか?」
カウンターの中でフルーツを切り始めていた元揮君が顔を上げると、俺の顔を見るなり怪訝な表情を浮かべた。
「え……何かありました?」
「………… 」
元揮君は俺の母親かな? と思うくらい俺のことをよく見ている。
今だって俺の顔を見てすぐに何かあったかを聞いてきた。きっともう何かを察しているのだろう、誤魔化したところでどうせ何かあったとばれてるいるだろうから、正直に「ちょっとね」と返事をした。
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